ピンタレストは過小評価されている


今やテレワーク時代の代表格となったズーム・ビデオ・コミュニケーションズが上場したのは今からちょうど1年前の2019/4/18である。公募価格36ドルは今や150ドル以上に化け、初値65ドルで買ってもその価値は2倍以上だ。一方で本日注目するピンタレストはズーム社と同日に上場したのだが、株価は低迷し現在も公募価格の19ドルにすら届いていない。しかも19ドルという価格は2017年時の評価額21.54ドルよりもかなり控えめに設定された低いハードルだったのだが。

ピンタレストの軌跡

・2010年創業
・2012年楽天が出資(注1)
・2019年4月18日に上場。初値は23.75ドル(公募価格19ドル)
・2019年8月22日に最高値36.83ドル
・2019年3月18日に最安値10.10ドル
・2020年4月17日現在の株価は17.45ドル

注1:楽天は2019年10-12月期に保有分を全て売却

今のところ株価は冴えないが、今後大化けする可能性を秘めている


ピンタレストは力強い成長を遂げており昨年Snapchatを抜き、Facebook、Instagramに次ぐ第3位の規模となった。今のところFacebook、Instagramとは圧倒的な差があることは事実だが、両社が辿ってきた成長曲線がピンタレストにも当てはまるとなると今の株価は過小評価されている可能性が高い。ただしこれはあくまで仮定の話だ。



Instagramは2012年に10億ドルでFacebookに買収されたが、ユーザーが10億人を超えた現在の価値は1,000億ドルを超えると言われる。Facebookは詳細は公表しておらずこれはあくまで予想ではあるが、たった8年で企業価値が100倍以上になった計算だ。またFacebook本体についても2012年の上場以降、株価は5倍近くなっている。Instagramが貢献したはここ数年であり、フェイスブックも上場時点から成長力は桁違いであった。



Facebookの売上高成長率

2012年50.89億ドル(上場)
2013年78.72億ドル(+54.69%)
2014年124.66億ドル(+58.36%)
2015年179.28億ドル(+43.82%)
2016年276.38億ドル(+54.16%)
2017年406.53億ドル(+47.09%)
2018年558.38億ドル(+37.35%)
2019年706.97億ドル(+26.61%)


・2012年の上場以降、売上高は3年で3.52倍、5年で5.43倍。
・2019年までの7年間で売上高は13.89倍。株価は4.7倍


フェイスブックは上場時に時価総額が1,000億ドルを超えていたが、ピンタレストは未だ100億ドル程度だ。ユーザー数は4億人に迫る勢いでInstagramの3分の1近くあり、収益化も順調だ。売上ベースでいつかインスタの3分の1、フェイスブックの10分の1程度の規模にまで育つようなことがあれば300〜500億ドルの市場価値を生む可能性がある。今のところフェイスブックの売上高はピンタレストの60倍以上あるが。



同社は常にFacebook、Instagramやスナップチャットと比較されるが、提供するプラットフォームはソーシャルネットワーキングサービスというよりも本質的には画像検索エンジンに近い。ファッションや料理、旅行やガーデニングに至るまで、好きな画像や動画をクリップしたり、雑誌のようにアイデアを得るために利用されている。他のSNSとの最大の違いは他人との共有がメインではなく利己的な側面が強いことだ。また近年ではショッピング機能が拡充されており、広告事業が収益の柱となっている。


2019年度業績

売上高・月間アクティブユーザー数


・2019年度の売上高は前年比+51%の11億4,276万ドル
・第4Qの米国外売上高は前年比+202%と大躍進(イギリス、フランス、イタリアなどの欧州で成長が加速)
・2019年第4Qの月間アクティブユーザー数(MAU)は3億3,500万人と前年比+26%。米国が+8%、海外が+35%。
→最新の報告によるとMAUは2020年3月末時点で3億6,500万〜3億6,700万


MAUの変化率
・2017年2億1,600万人
・2018年2億6,500万人
・2019年3億3,500万人
・2020年3月3億6,600万人(暫定予想)

ピンタレストが躍進すると考える2つの理由。


オンラインのユーザーはより視覚的なアプローチを好むようになっており、ピンタレストのプラットフォームは大きな恩恵を受けている。人々は直感的でインスピレーションを生かせる体験を重視しておりInstagramの台頭はまさに分かりやすい例だ。人々はオンラインショッピングにおいても画像で確認したり比較したりする機会が増えている。




もう1つはブランドの調査によるとピンタレストがもたらす広告トラフィックは他のメディアよりも効果が大きいと言われることだ。これは同社のアプリを利用するユーザーが圧倒的に女性が多く7割以上を占めており、インスタやスナップチャットよりも年齢層が高いことを考えれば必然だ。さらに購買意欲を持ったユーザーが多いことが実証されており同社の広告価値を高めている。


pintarestとSnapchatのユーザー年齢層

ピンタレストの創業者でCEOのベン・シルバーマン氏は2017年に「検索の未来はキーワードではなく、画像にある。」と語ったがこれは正しかった。Instagramはまさに最高の成功例であるが、ネット検索を支配するGoogleもユーザーの視覚的な体験を強化するためにディスカバー広告や画像検索に力を入れている。その他にもピンタレストを意識した「Google Lens」やTikTokを模範とした動画共有アプリ「Tangi」などを導入してきている。またあらゆる企業のWEBサイトやアプリのインターフェイスはより視覚的な要素を重視したものがトレンドになりつつある。



また同氏はピンタレストのビジネスモデルである画像や動画のクリッピングのアイデアは、幼いころの趣味であった昆虫の標本作りをオンライン上でやりたかったことがきっかけと語る。ピンタレストのプラットフォームではお気に入りの画像がどんどん現れ、関心があるテーマのアイデアを深めるにはなかなか都合がいい。今は亡き元アップルCEOスティーブ・ジョブズは「人々は形を見せられるまで何が欲しいかを分からない。」と語ったことは有名だが、画像や動画を媒体にしたコンテンツは人々へ大きな影響を与え続けるだろう。



ピンタレストのマネタイズはまだまだこれから



ARPUとはユーザー1人あたりの平均売上高

2019/12末時点の各社ARPU比較
・フェイスブック8.52ドル(米国41.41ドル)
・スナップチャット2.58ドル(米国 4.42ドル)
・ピンタレスト1.22ドル(米国4.00ドル)


ご覧の通りピンタレストのARPUはフェイスブックの7分の1であり、スナップチャットの半分しかない。スナップとは米国ARPUに差がないにも関わらずトータルで倍近い差がある理由は、海外市場のマネタイズが遅れていることである。ピンタレストは各国において随時ショッピング機能を強化している最中であり、いずれはスナップのARPUは確実に超えるだろう。ARPUがスナップ並の2倍に改善すればEPSもそれに近い水準に変化する。


コロナ問題を受けて


同社も新型コロナウイルス問題の影響を受けて4月7日に通期予想を撤回した。収益の大半を稼ぐ米国ならびに高成長を続けるイギリス、イタリア、フランスなどの欧州はコロナウイルスによって甚大な被害を受けており業績の下振れは避けられないだろう。


撤回した従来の2020年売上高ガイダンスは前年比+33%の15.2億ドルだった。
→対して現在のアナリスト予想コンセンサスは13.1億ドルと前年比+14%程度の水準。



もし仮にコロナ問題がなければ2020年ガイダンス+33%は(2019年+51%)個人的にかなり低い見積りであり上振れの可能性が大だったと思う。しかしもはやタラレバの話であり一転して今年はかなり厳しい。成果を出すためにはもう少し長い期間が必要だ。



コロナ問題は先が見えず長期化する可能性が高い。そのため新興企業は特に資金繰りが懸念があるのだが、幸い同社にはIPOのおかげで17億ドルの現金および同等物がある。業績面を見ても2019年度は営業キャッシュフローは黒字に転換しており、フリーキャッシュフローの赤字も3,313万ドル程度まで縮小している。万が一大赤字を垂れ流したところで問題は全くない。



心配なのはピンタレストの事業領域へデジタル広告の覇者GoogleとFacebookが参入していることである。特にFacebookの「hobbi」は明らかにピンタレストを狙い撃ちしたサービスだろうが、インスタがスナップの「ストーリーズ」を丸パクリしたように機能が模範される可能性がある。かつてフェイスブックは「Google+」を完全に敗北に押しやったが、ピンタレストがせめて自分達のフィールドを守ることができるだろうか。今のところはパイオニアとしての優位性があり市場規模拡大の恩恵にあずかるだろうが、突き抜ける企業になるかどうかはまだまだ見定める必要があることも事実だ。