ボーイングの株価はピークから80%近く下落
ボーイング社の株価は1年1ヶ月前につけた史上最高値から既に79%も下落しており、時価総額は今やたったの536億ドルだ。2度にわたる墜落事故と新型コロナウイルス問題の影響によって、1,800億ドル以上もの時価総額が失われた計算になる。米国製造業界の象徴でもあり、その圧倒的な株価パフォーマンスでダウ銘柄でも勝ち組企業であった同社が、わずか1年で見るも無残な姿に陥っている。
ボーイング社は配当の支払いと自社株買いの停止を発表し、さらに自社とサプライヤー支援のために600億ドルが必要だとの見解を示した。先週、資金繰りの懸念によって同社の信用リスクは急速に高まりCDSは急騰している。S&Pは同社の格付けを1段階引き下げるとともに、債務が年末までに460億ドルとすり減った時価総額に迫る水準まで拡大すると見ている。また737MAXの運行停止による補償金の支払いなどによって、今年1年間だけで120億ドルもの現金を失うだろうとの恐ろしい予想をしている。
2008年の金融危機同様、最後の買い手としてバークシャー・ハサウェイの存在は大きい。手元には昨年12月末時点で1,280億ドルもの現金があり、条件次第ではボーイングへの支援、または今の時価総額であればまるごとの買収も含めた案件として検討されてもおかしくない。2008年時には危機に喘ぐゴールドマン・サックスやGEに対して、10%ものクーポンをつけた優先株を引き受けたが、個人的にはボーイングに対しても水面下で交渉していてもおかしくないと思っている。
バフェットはよく「moat」=「堀」と言う言葉を使い、つまり参入障壁があり競争優位性が高い企業を好んでいるが、それならばボーイングはまさに格好の投資先だ。航空機産業はボーイングとエアバスが市場を完全に支配しており、今回の問題を受けてもその構図が変わることは到底考えられない。クレジットカード業界も同様だが、市場規模が大きく、成長性が高い市場を一部の企業が独占している美味しい業界だ。
今や500億ドルそこそこの時価総額ではあるが、問題が起こる前の2016年に79億ドル、2017年に115億ドル、2018年には135億ドルものフリーキャッシュフローを生み出している。2019年度は22年ぶりに赤字となったが、それまでは20年以上も連続して黒字を出してきたことを考えれば、問題が収束した時に受けられる恩恵は大きい。
バークシャー・ハサウェイはサウスウエスト、アメリカン、ユナイテッド、デルタなどの大手航空会社へ出資しており、これらの企業もボーイング同様に株価が急落している。直近はデルタ航空の株式を買い増したとのことだが、今後は既に投資をしている航空会社への支援を含めた追加投資を優先する可能性もある。しかし個人的に案件ベースでみればボーイングへの投資の方がはるかに魅力的には見えるのだが。
しかし最大の問題は、737MAXの運行再開がいつになるかという点だ。同社は運航再開時期について、2020年半ばになるとの見通しを発表したが、アメリカ連邦航空局(FAA)から認可を得られるかどうか不明だ。同社は5,000機を超える受注残を持っているがそのうち9割以上は737MAXであり、停止している間は永遠に赤字を垂れ流し、現金を燃焼し続けることになる。737MAX停止によって航空会社への補償が負担となっており、売上高の4割を占める防衛・宇宙関連とサービス収入では到底賄うことでできない。
投資妙味は高いが注意点も
リーマン・ショックが起こった12年前、危機に瀕したGMとクライスラーは連邦破産法 11 条、いわゆる「Chapter 11」が適用されて一時国有化された。今後問題がどんな形になろうともボーイングが再建されることは間違いない。しかし思ったよりも深刻に事態が進み、仮にでも連邦破産法 11 条が適用された上での再建となれば、既存株主は全てを失うことになる。
結論から言えば今のところその可能性は低い。トランプ大統領も政府による支援を約束しており、問題の根源を考えれば一時的な融資で事足るものと思われる。しかしボーイングは国の防衛関連の事業を多数受け持っており、国が支援した上で防衛事業を受注し続けることに対して明らかにモラルハザードが懸念される。米国防総省のクラウドの受注をマイクロソフトに奪われたアマゾンは政府の介入だとして大揉めしているが、もし仮に片一方に政府の金が入っていたら事態は収拾できないだろう。
また税金による救済は多くの国民の反感を買うだろう。支援を求めているボーイングや航空会社のCEOや役員がこれまでに多額の報酬を得ていたことが容易に許されるはずかない。つい先週、ウェルズ・ファーゴの元CEOが退職金1,500万ドル(16億円)を回収されたとの報道があった。在任期間にウェルズ・ファーゴで多くの不正が見つかったことは事実だが、巨額報酬に対する周囲の目は非常に厳しくなっている。
これまで述べた通りボーイングは仮に窮地に陥ったとしても救済される可能性が高い。しかし今後の展開次第だが、既存株主までもが守られるとは限らないことには注意が必要だ。そういった事情からボーイングへ仮に投資するとしても一般投資家は無理のない範囲に抑えるべきで私たちは所詮事の成り行きを見守るしかない。バークシャー・ハサウェイのみが、自らの手でどうするかを決めることができる。