金融株に関する考察1


グロース投資家にとって金融株は魅力的ではない。これは完全なる私見だが、リターンを追求するポートフォリオに金融とエネルギー株は不要だ。短期的なシナリオに基づく投資戦略までも否定するつもりはないが、長期のポートフォリオでは足を引っ張る公算が高いと考えている。

確かにバークシャー・ハサウェイのように金融株を好むファンドもあるが、近年のリターンはS&P500の後塵を拝しており、一方で結果を出しているアクティブファンドの大半は金融株のウェイトが極端に低い。これらは全て結果論ではあるが、私は今後もこの傾向は続くと考えている。

ちなみに「金融」という大雑把な表現をしたが、私が言う「金融」とは主に伝統的な銀行や証券会社、運用会社を指しており、クレジットカードのビザ、マスターカード、決済大手ペイパル、それにファイサーブやグローバルペイメンツなどは含まれない。これらの企業は最も主流な業種分類「GICS」においても、全て「IT」に分類されている。


2020年2月時点において、S&P500の「金融」に属する企業は66社あるが直近3年のリターンで市場平均を上回っているのは3分1にとどまる。近年の金融セクターにおける勝ち組企業は、金融情報サービス、格付会社、取引所といった企業が中心で、その中でもトップパフォーマンスを誇るのは金融サービス企業のMSCIだ。インデックス指数で有名な同社の株価は3年で3倍、5年で5倍以上に膨れ上がっている。


3年リターンで続くのはMoody's、S&Pグローバルなどの格付会社であり、その次にCME、NASDAQ、Cboeなどの「取引所」と地味な保険会社が大半を占めている。銀行に限れば直近3年リターンでS&P500を上回るのはJPモルガン・チェースただ1社のみであり、辛うじて市場平均に近いのがバンク・オブ・アメリカだ。残りはゴールドマン・サックスもモルガン・スタンレーもシティもウェルズ・ファーゴも全て負けている。


長引く低金利に加え、金融危機後に敷かれた厳しい規制が銀行株を低迷させている。上記に上げた銀行はいずれも「システム上重要な金融機関」に指定されており、厳しい資本要件が課されているのだが、資本バッファーを高水準で維持するため、大半の銀行はROEが10%に満たない。コンプライアンス関連コストも高くついている。リーマン・ショックが起こる前までは規制は緩く、バランスシートにレバレッジをかけて時に派手に稼ぐこともできたのだが、もはやそういう時代は終わった。低金利でスプレットは縮小し、旨味のある投資銀行ビジネスもブティック企業との競争にさらされ、あらゆる分野でフィンテック企業が台頭するようになった。銀行はもはや稼げない商売に成り下がったのである。


最近の傾向として、かつて大企業のみを相手にしていたゴールドマン・サックスやモルガン・スタンレーが今や個人相手のビジネスを模索している。ゴールドマンは「マーカス」というオンライン融資やアップルと組んでクレジットカード事業へ参入しているが、間もなくアマゾンと組んで融資案件にも参入する。またモルガン・スタンレーは金融危機後にウェルス・マネジメント事業を軌道に乗せたが、まさかEトレードを買収するなどかつては考えられなかったことだ。同社のウェルス・マネジメント事業の顧客数は300万にのぼるが、1人あたり平均90万ドルの資産を管理する。それが平均でたった7万ドル程度の資産しかない520万もの口座を、130億ドルという大金をかけて取りに行くということだ。Eトレードが顧客から預かる500億ドルを超える預金や、お互いに強みを持つ従業員持ち株管理業務のシナジーを考慮しても「価値」があるのか甚だ疑問だ。


銀行だけではなく、伝統的な資産運用会社も苦しんでいる。アクティブファンドからは資金が流出し、受け皿であるインデックスファンドやETFは過剰な手数料引き下げ競争に陥っており、ついにはフィデリティが無料のETFを発表するまでに至った。バンガードは畑違いのアドバイザリー業務やプライベート・エクイティファンド立ち上げを表明しているが、各社がリスクをヘッジするために多角化を進めている。


昨年衝撃だったのは米国の主なディスカウント・ブローカー(ネット証券)が株式・オプション手数料を無料化にしたことだ。2013年創業のフィンテック企業ロビンフッドが手数料無料を武器に、わずか6年でEトレードを顧客数で抜き去ったことがきっかけであったが、その後4ヶ月でTDアメリとEトレードという大手2社は買収された。


また冒頭に金融セクターの勝ち組みの1つとして紹介したCME、NASDAQ、Cboeなどの取引所も間もなく競争にさらされる予定だ。高いデータ使用料に嫌気がさしたバンク・オブ・アメリカ、チャールズ・シュワブ、フィデリティ・インベストメンツ、モルガン・スタンレー、UBSなどの大手金融とHFTのCitadel、Virtuなどは今年7月に「MEMX」という新設市場開設で合意している。最近はゴールドマンとJPモルガンが加わった。取引に係るあらゆるコストが低下していく流れは当面続くだろう。


銀行にとって唯一明るい材料は、自らをも苦しめる厳しい規制によって大手ITやフィンテック企業の参入余地が限定されていることだ。例えばアマゾンレンディングは出店企業への融資プログラムであるが、資金を提供するのは今のところバンク・オブ・アメリカだ。ゴールドマンとアップルがクレジットカードで提携していることは既に述べたが、顧客情報や基盤を持つアマゾン、アップル、グーグルが金融に参入できる余地は大きい。これらの企業が多額の預金を集めたり、自ら融資するなど造作もないことだが、米国ではアリババやテンセントのようにIT企業が気軽に銀行ビジネスに参入することは難しく、深入りすると規制を受ける可能性がある。GEがその昔、金融事業を売却した理由は規制を受けないためであるが、GAFAも金融事業ついては仲介ビジネスに留めることが合理的となる。


そういった観点から銀行が今すぐITやフィンテック企業に一掃される可能性はほぼないのだが、個人的には今後数年において銀行株が特別高いリターンを上げるイメージは一切ない。さらなる競争激化と業界全体の緩やかな衰退が基本であり、完全に無視するか、ポートフォリオに加えるとしても本当にわずかに留めることが妥当と判断している。