金融株に関する考察2

ロビンフッドの無料のカラクリ


金融業界は規制や既得権益がはびこる非効率的な世界であり、とにかく古い。そのため「IT」で効率化を進められる余地は大きいのだが、金融業界というのは根本的に差別化が難しい。目新しさだけの革新性はすぐに失われコモディティビジネスに成り下がり、勝者なき競争に陥る可能性が高い。これまで多くのフィンテック企業のビジネスモデルを見てきたが、持続的に成長できるものは非常に少ないと感じている。


例えば最近話題のフィンテック企業である米Robinhoodは、昨年の資金調達ラウンドにおいて76億ドルもの評価を受けたとのことだが、競争が激化した時に差別化できる要素が少なく、持続性には疑問だ。

2013年に設立された同社は、株式やETF、オプション取引の無料化を進めて一気にシェアを拡大したが、今や大手ディスカウント・ブローカーは全て手数料を無料化しており、ロビンフッドのビジネスは目新しいものではなくなった。しかもTDアメリ、Eトレードが買収され、今後はフィデリティ、チャールズ・シュワブ、モルガン・スタンレーといった事業を多角化している大手と戦わなくてはならない。

またビジネスモデルを見れば同社には競争優位性を保てる要素が少ないことに気がつく。使いやすいインターフェイスは好評だというが、システム障害などの脆弱なシステム問題に加え、また顧客との利益相反の可能性が高い収益に依存している。

ロビンフッドを含めた近年の米ディスカウント・ブローカーは手数料競争を演じているが、実態を探るとそれは単にコストを見えにくくしただけで、顧客の利益を本質的に向上させているとは言えないケースも多い。多くの顧客は手数料無料のサービスを受ける代償として注文時に「最良価格を得る権利」を失い、また預けたお金の利息を放棄しているケースが多い。

そもそもロビンフッドが「どうやって手数料を無料化しているか。」ということに疑問を持つのが普通だろう。他のディスカウントブローカー同様、信用の金利収入で稼ぐモデルは一緒だが、最大の収益源はマーケットメイカーからのキックバックだ。これは「Payment for order flow」と言われ、ブローカーが取引所ではなくマーケットメイカー(大抵はCitadelやVirtuといったHFT )へ発注する際に受け取る手数料のことである。

多くの人は、自分が出した注文がそのまま取引所へ発注されていると思うかもしれないが、実際はHFT業者を中心としたマーケットメイカー社内で受けた他の注文(内製化)と取引されているケースがある。どれを選択するかはブローカー次第で、通常この世界では「最良執行義務」というルールが存在しており、顧客がもっとも有利に約定できる方へ流すことが決まりだ。しかしマーケットメイカーへ発注すれば手数料が受け取れることを考えれば、それをより多く支払うHFT業者へ発注するインセンティブが働くことは容易に理解できるだろう。


SEC606によって各社の発注元は公表されているが、その妥当性を証明する術はない。HFT業者は市場価格との裁定機会を得ることでWINWINの関係を築いているが、ロビンフッドは昨年12月にFINRA(金融業規制機構)から125万ドルの罰金を課されている。

調査期間(2016/10-2017/11)における大半の注文が4つのHFT業者へ送られておりキックバックを受けていた。ロビンフッドはとにかくこういった不透明な注文がずば抜けて多いのがだが、少なからずチャールズ・シュワブやTDアメリ、Eトレードでも同様の取引は行われている。
※バンガードやフィデリティのように受け取らない業者もある。(フィデリティはオプション取引では行っているが。)


ただしPFOFはその不透明さや利益相反の問題がある一方で、マーケットメイカーを引き付け、市場の流動性を高める役割を果たしていることも確かである。ここで倫理的な問題を含め何が正しいかをはっきりさせるつもりはないが、少なくともロビンフッドのPFOFによる無料ビジネスは革新的なものではなく、独自のものではない。

また日本でもSORといって私設市場やダークプールへ発注するケースがあるが、市場価格よりも有利な場合に限定している点で米国よりも非常にクリーンと言えるだろう。その価格差の一部を収益として受け取るSTREAMという業者のビジネスモデルは素晴らしいと思うが、もし仮に儲かる商売だと認知されれば、やはり差別化が難しく生き残りは厳しいだろう。

金利収入を奪う

ここ数年間でディスカウントブローカーの収益は、売買手数料から金利収入へ大きく変化した。チャールズ・シュワブの場合、全体の収益のうち売買手数料は6−7%程度まで低下し、一方で金利収益は6割近くにのぼるようになった。


日本の証券口座では、余剰資金は自動的にMRFへスイープされて金利が付く。米国も以前はMMFへスイープされる事が当たり前であったが、もはやその慣習はない。大抵のブローカーは滞留資金を自社の銀行口座へ移すように仕向け、MMFよりもはるかに低い金利しか支払っていない。つまりはブローカーは売買手数料の低下を推し進める一方で、顧客が本来受け取るべき金利収入を掠め取るようになった。さらに顧客資金を銀行口座で管理することで、CPを発行することなく資金繰りが行える。※最大手のフィデリティはMMFを提供している。


チャールズ・シュワブは昨年TDアメリ買収を発表し、RIAでも50%以上のシェアを持つ巨人となり、顧客資産は5兆ドルを超える見込みだ。資産運用やバックオフィス業務などの多角化したビジネスもあり盤石に見えるかもしれないが、実際は収益の半分以上を顧客から預かる現金からの利息に頼っており、極めて不安定なものだ。それが足元の金利低下で株価が下落している原因なのだが、仮に米国の金利がもしマイナスにでもなるようであれば同社は大幅な戦略変更を余儀なくされる。顧客の預金に対する金利競争も激化してきており、取り巻く環境はただただ厳しい。

最後に

日本でもオンライン証券会社の無料化が進むと考えられるが、米国同様そこに勝者が生まれるかどうかは不明である。既に紹介したように米国のブローカーは収益モデルを金利やストックへ移行したのだが、肝心の金利や信託報酬は低下を続けるばかりだ。


日本の金融機関は、顧客の資産残高に応じて得られる報酬、例えば投資信託の信託報酬などなストック収益の拡大をイメージしている。ただストック型収益の大半はインデックスファンドのような薄利の商品に変わってきており、なかなか楽になることはない。今のところ利幅の高いオルタナティブや新設のESGなども直ぐにコモディティ化する可能性がある。

フィンテック業界を見ると決済関連はかなり成功しているが、伝統的な金融業界は厳しい。単にITを活用しただけのサービスはすぐに面白みのないビジネスになり、金融を劇的に変えるような「イノベーション」というのは、まだまだ先かと思っている。