アファーム(AFRM)の長期展望、ショッピファイとの提携について検証

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 今回は読者の方よりいただいた質問に回答したい思います。

「アップルがアファームの競合となりそうですが、私は数年は先行者優位が続くと踏んでいます。Naveさんの注目企業一覧に入らないのは、中長期的に成長が見通しが立てづらいからなのでしょうか?差し支えない範囲でご教示頂けましたら幸甚です。」


アファーム(AFRM)に関しては以前に記事を書きましたが、注目している企業の一つです。BNPLサービス(Buy Now Pay Later)は、金利を節約したい消費者と購買意欲の高い顧客を求めるマーチャント双方にメリットがあり、今後も間違いなく普及していくでしょう。最近ではOTAとも提携し、旅行代金の分割払いとしてもよく利用されています。



アファームの株価はIPO後に跳ね上がりましたが、最近はバリュエーションも妥当な水準まで落ちて来ていますし、何よりショッピファイとの提携はかなり過小評価されているのではないかと考えております。またBNPLは2020年に米国のEC決済のわずか2%しか占めておらず、潜在的な市場規模は5,000〜6,000億ドルとも言われる巨大なマーケットであることも魅力的です。



しかしビジネスモデルの観点からいくつかの問題を抱えていることも事実であり、正直なところアファームの長期的な評価は分からないというのが本音です。回答になるかどうかは分かりませんが、いくつか参考になりそうなポイントを上げて行きたいと思います。


まず悪い面から申し上げると、やはりBNPLは参入障壁が低く、昨年のPayPal、今回のAppleのように新規参入者が増加していくことは確実ということです。長期的に見た時に、moat(堀)のあるなしは極めて重要なファクターで、参入障壁の低いビジネスは市場の成長が止まった瞬間にコモディティビジネスに成り下がってしまいます。


また同業他社もかなりの手強い存在で、豪州の王者であるAfterpay(アフターペイ)、スウェーデンのKlarna(クラーナ)も米国市場への攻勢を強めています。米国への上場も噂されるアフターペイの1-3月期の売上高成長率はアファームを上回ります。さらに同社は決済大手ストライプとのパートナーシップを得たことで強力なライバルになることは確実です。


またクラーナは、アファームよりもはるかに大きい欧州最大のユニコーンです。6月にソフトバンクが主導した資金調達では456億ドルの評価を受けており、これはアファームの時価総額の約3倍に相当します。同社にはVISAが出資しており、カードネットワークとの連携があり、また銀行免許も保有し、より広範囲のビジネスを手掛けています。


アフターペイ、クラーナ、それにPayPal。Appleの次はGoogleか、はたまたSquareか、銀行が乗り込む可能性も十分にあり、VISAも分割払いのオプションを開発中で、競争相手は無限に存在します。


Revenue
affirmの売上高推移


今のところアファームのトップラインの成長率は目を見張るものがありますが、競争が激しくなる中で、果たしていつ黒字化できるのか、どれぐらいの利益を確保できるのかは心配なところです。需要があるビジネスであっても必ずしも儲かるビジネスとは限らないからです。


さらにもう少し先を予想してみます。BNPLは今のところほぼEC専用ですが、PayPal決済、VenmoやCashApp同様、将来的にオフライン市場の取り込みが鍵となる可能性が高いと思います。つまり後払いサービスを、実店舗でも有効にする方法です。


クレジットカードの真の強さはオフライン市場にあります。BNPLがクレジットカードに取って代わる存在を目指すならば、避けては通れない道になると思います。


ECもオフラインもシームレスに利用できるサービスとなると、アファームにその優位性はありません。現在進めているデジタルカードの競争力もあまりないと思います。PayPalはVenmoを通じて簡単に実店舗のBNPLを装備できるでしょうし、さらにスマホというハードを持つアップルペイはオンライン・オフライン共に強力です。


BNPLサービス自体に差別化できる要素は少ないため、他のサービスとの組み合わせの勝負となると不利になる可能性があります。


次に資金調達面です。BNPLは顧客に変わって資金を立替、後から回収するモデルですが、アファームの顧客へ実際に融資するのはCross river bankです。今のところは自己資本をほとんど使わずに安い金利で調達できていますが、今後金利上昇によってマージンが悪化したり、規制強化やデフォルトの増加によってより多くのバランスシートが求められる可能性もあります。


ちなみに金利がこれ程下がっても、クレジットカードの金利は過去数年間ほとんど下っておらず、逆に言えば金利上昇時に顧客へコストを転嫁できる余地はほとんどないということになります。


これらが懸念すべき事項の大半となります。


一方で向こう1年で強気になれる理由を述べたいと思います。


アファームはショッピファイの決済におけるデフォルトのBNPLサービスとしての地位を獲得しており、そのインパクトはかなり大きいはずです。



ショッピファイのプラットフォームは今やアマゾンに次ぐ規模を持ち、米国ECの8.6%を占めます。アファームのサービスに登録するマーチャントはわずか1.2万社で、1-3月期のGMVは23億ドルでした。それがいきなり180万社近いマーチャントと、同期間に373億ドルものGMVを持つショッピファイの顧客基盤へアクセスできるのです。(海外も含みますが。)


さらに顧客ポートフォリオの多様化は、売上高の3割近くを占めるPelotonへの依存という、アファーム最大の懸念材料をも取り除くことになるでしょう。


パイロットプログラムを経て、6月に始まったショッピファイとのBNPLサービスは、4-6月期実績への貢献は限定的でしょうが、7-9月期以降に大きく寄与するものと考えられます。


その昔、PayPalはeBay専用の決済プラットフォームとして大きくなり、やがて独立して今に至ります。アファームにとってショッピファイが同様の存在になるかどうかは運命を左右するポイントになるでしょう。ショッピファイは昨年7月に締結されたパートナーシップの見返りとしてアファームの2,030万株のワラント(およそ8%)を保有します。また今回の取引ではトランザクションごとに非公開のキックバックを受け取る契約があるとのことです。


間もなく発表されるアファームの2021年6月期通期の売上高は、前年比で+63%と予想されていますが、来期のコンセンサスはわずか+38%程度です。22年度の予想売上高に基づくPSRは13.5倍で、バリエーションはかなり低下しています。


今後数四半期にわたって売上高成長率は市場予想を上回り続けると考えており、そのマネタイズの機会をものにしたいと思う一方、長期的な競争力に確信は持てていません。よって総合的な投資判断はニュートラルです。


ただBNPLは決済に留まらず、買い手と売り手を結びつけるデジタルプラットフォームとしての存在感が増しています。例えばアファームのトランザクションの3割が同社のモバイルアプリから発生しており、つまりユーザーはアファームが利用できる店舗を探して買い物をしています。今後想定していない要素や新たなビジネスチャンスが生まれる可能性があり、同社の可能性についてはさらに検証していく必要があると考えています。