米ボックス社VSスターボード・バリューの攻防


今回は米ボックス(BOX)とアクティビストのスターボード・バリューとの攻防を検証することで、最近話題のアクティビストの問題について考えたいと思う。ボックス社を巡る戦いは、「株主に対して決断を問う」まさに真の戦いである。既に株主総会に向けたプロキシーファイトは開始されており、両社は3つの取締役会の議席をかけて戦うことになる。(追記:年次株主総会は2021年9月9日)


上場企業VSアクティビスト、そしてホワイトナイトの登場。この戦いを考察することで、世界経済を牽引する米国の資本市場の強さを知ることができるだろう。それとともにアクティビストの存在意義やコーポレートガバナンスについて、改めて考えさせられることも多い。


アクティビストはクラウドストレージ業界を標的に

ちなみに「ボックス」と聞いて、ドロップボックス(DBX)の方を思い浮べる方も多いかもしれないが、今回のボックス社はエンタープライズに特化した別の企業である。ただターゲット層は違えど、クラウドベースのストレージやコンテンツ管理プラットフォームなど手掛けるサービスは基本的に同じである。またドロップボックスが上場したのは2018年だが、ボックス社はその3年前の2015年から上場している。


ボックスの共同創業者であるアーロン・レヴィCEOとディラン・スミスCFO(BOXのwebサイトより)


2社が似ているのは名前だけではなく、CEOがまだ30代と若く、学生時代に起業した会社であることや、はるかに規模が大きいMicrosoftやGoogleとの競争にさらされ、株価が低迷していることも同じだ。そして共にアクティビストの標的となっている。ドロップボックスに対しては、最近エリオット・マネジメントが株式を10%取得した。


業界を代表する2社がいずれもアクティビストのターゲットになっているのは、業界固有の問題が関係している。それはクラウドストレージというビジネスそのものが既にコモディティ化していることだ。確かにデータ時代にあって需要自体は増加しているものの、競争は激化し、成長性も収益性も損なわれている。参入障壁の低いこれらのビジネスに必要なものは規模であり、それに相応しい巨大なプレイヤーは存在する。それゆえ単独で生き残るためには、ビジネスモデルの再構築が必要になる可能性が高いだろう。


業績は年々鈍化、株価も冴えない


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ボックスの売上高推移と成長率

WSJによると、6月時点でナスダック・エマージング・クラウド指数(EMCLOUD)の構成企業の平均PSRは12倍とのことだ。つまり会社の平均的な時価総額は、年間売上高の12倍という高評価を受けていることになる。しかし同指数に採用されているはずのボックス社の予想PSRはわずか5倍である。つまり人気セクターに属してはいるものの、クラウド企業とは名ばかりで評価は著しく低い。さらに同指数の構成企業58社中、売上高成長率は下から6番目だ。


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ボックスの上場来の株価チャート

スターボード・バリューは2019年にボックス社の株式を8%弱取得しており、投資期間は間もなく2年になる。しかし良好なマーケットにも関わらず、残念ながら大きな成果を得るには至っていない。このアクティビストが、成長が鈍化し、さらに巨大な敵に立ち向かっていく必要があるボックス社に対して、どのような提案を行っているかは気になるところではある。(詳細については非公開。)


しかしファンドである以上、リターンが全てだ。またボックス社の立て直しのために何年も時間を費やすわけにはいかず、足元はファンドや事業会社への売却を出口としている可能性が高いと言われている。実際、スターボードは投資先の1つであるACIワールドワイドには明確に身売りを要求しているが、ボックスに対しても非公式で何かしらのやり取りはあるはずだ。


真相は不明だが、いずれにせよ取締役会への関与を強めようとするスターボードと会社側には亀裂が生じており、その関係は修復不可能なところまで来ている。


(追記:2021年7月13日 2021年7月6日にボックス社よりproxy statementが公開され、スターボードが2020年の12月以降、会社の売却または、アーロン・レヴィCEOの解任のいずれかを選ぶように迫ったことが明らかにされた。)


スターボード・バリューとは


スターボード・バリュー
Bloombergのインタビューに答えるジェフリー・スミスCEO


スターボード・バリューは、エリオット・マネジメント、サードポイントなどと並び、米国で成功しているアクティビストの一つで、代表のジェフリー・スミス氏は、最も恐れられる男として知られる。その名を一躍有名にしたのは、2014年にレストラン事業を行うダーデン・レストランツ(DRI)の取締役全員を追放し、立て直しに成功したことだろう。さらにYahooに対し、取締役全員の退陣を要求したことでも有名だ。


最大の特徴は外部からの圧力だけではなく、取締役会の議席を確保し、会社の内部から変革を迫ることにある。ロイター通信によると2020年の上期には、投資先4社に対して17名もの取締役を送りこんだとのことだ。


ポートフォリオ
スターボード・バリューの投資先上位一覧


ダウ・デュポンからスピンオフした農薬・種子のコルテバ(CTVA)、インストラクチャ企業のエイコム(ACM)、セキュリティ製品のノートンライフロック、半導体のONセミコンダクター、電子決済のACIワールドワイド(ACI)など。


スターボードは、これらの上位投資先に対して例外なく取締役を送り込り込んでいる。当初は2、3人の採用を認めさせ、少しずつ追加して過半数を確保し、会社の息のかかったメンバーを排除していく。例えばエイコム(ACM)に至っては、既に取締役会11議席のうち7議席がスターボードが推薦したメンバーに変更されている。


同じように取締役会を支配されつつある企業がコルテバだ。先月、CEOが年内を最後に辞任することが発表された。スターボードは、今年の1月にCEOを含む12名中8名の取締役を交代させる案を出していた。結局、会社側が折れて3名の取締役を採用することで和解したばかりだったが、やはりCEOの続投は認められなかったようだ。


肝心のボックス社はと言うと、スターボードのポートフォリオでは上から7番目に位置する。そしてやはり20年3月に3名の社外取締役を採用している。


一時休戦も再び

長期的な展望を望むボックス経営陣は、時間の猶予を求め、2020年3月にスターボードが推薦する3人の独立社外取締役の受け入れと、委員会設置を条件に和解した。


しかし1年が経過し、スターボードは状況が改善されていないことを理由に再び圧力を強めている。5月には「多くのクラウド企業が良好な環境を生かし、急速な成長、利益率の拡大、劇的な株価上昇をもたらしているにも関わらず、ボックス社に至ってはほぼ現状維持に留まっている。」と厳しく非難した。


さらに2020年のパンデミック下では多くの企業がコストを圧縮したが、ボックス社はそれにも取り組めていないと指摘する。ライバルのドロップボックスが全従業員の11%にあたる人員削減や10億ドルの自社株買いなどの大胆な対応を行ったことで、より際立つ結果となった。


スターボードはボックス社が繰り返し約束した問題に取り組めていない事や、業績不振、そして後述する資金調達問題もあり、取締役メンバーの変更を主張している。具体的には今回再選の対象となる3議席に対して、スターボードのマネージングメンバーであるピーター・フェルド氏を含む4名の独立社外取締役を立てている。


ボックス社はスターボードの取締役案を拒否しており、このまま和解に至らなければ決戦の舞台は株主総会に移されることになる。投資家はスターボードにつくか、会社につくかを決断することになる。


スターボードの提案に沿い、取締役会のメンバーを変更した場合のゴールは、恐らく「会社の売却」が有力となるだろう。一方の引き続き現経営陣に託すという選択肢は、数カ月前ならばかなり劣勢だったはずだが、プライベートエクイティファンドのKKRが経営陣についたことで事態は急変した。(詳細は後述。)


株主構成

冒頭に、ボックスとドロップボックスが非常に似た会社であることは説明したが、1つだけ決定的に異なる点がある。それはドロップボックスの経営陣がデュアルクラス株式によって議決権の7割以上を支配しているのに対して、ボックス経営陣の議決権は2%強と、裸も同然ということだ。


議決権の詳細を述べるとアーロン・レヴィCEOは1.4%、共同創業者のディラン・スミスCFOは0.8%、ボックス経営陣についたKKRは11%で、一方のスターボードバリューは8%。つまり全体の8割近くは機関投資家を中心とした外部の株主が握っており、彼らがまさにどちらにつくかで運命は決まる。


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ボックスの株主一覧

実はボックス経営陣も、かつては10倍の議決権を有するClass B株式を通じて98.8%の支配権を持っていたが、2018年6月にその全てを廃止した。(上場時にアーロン・レヴィCEOの持ち分はわずか4.1%しかなかった。)


これは資本市場のあり方からすれば正しい決断をしたと思うが、結果的には今回の事態を招く最大の要因となったことは間違いないだろう。一方のドロップボックスの株式を購入したエリオット・マネジメントは資本の論理の前に、できることはほとんどないのである。


KKRからの資金調達は両社の破綻を決定的にした

再びスターボードの攻勢を受け、身売りの噂が絶えなかったボックス社だったが、2021年3月にロイター通信が複数の企業やファンドと交渉をしていると報じると株価は一気に17%も上昇した。しかしそのわずか17日後に、プライベートエクイティのKKRとのパートナーシップを発表して市場を仰天させた。買収の可能性が遠のいた事で、株価は9%下落した。


パートナーシップの中身は、KKR向けに5億ドルの転換社債型優先株式を発行し、ファンドの責任者であるジョン・パーク氏を取締役として迎えるものだった。これはボックスがアクティビストから逃げ切るための手段であることは言うまでもないが、最も肝心なことは5億ドルを引き受けるKKRが11%の議決権を持つということだ。



スターボードは、「この資金調達にビジネス的な目的はなく、経営陣が自らの地位を保全するがための恥知らずな票買い行為」と強く反発。コーポレートガバナンス上の背任行為として、攻撃している。


確かにKKRからの資金調達は、事業や買収に活用されるわけではなく、使途は自社株買いに限定されている。つまりスターボードの言葉を借りれば、5億ドルの普通株式を買い戻すために、5億ドルの優先株を発行したことになる。しかも優先株には年率3%の配当を受け取る権利が付与されており、調達コストは余分にかかっている。(普通株式は無配。)


改めてスターボードの言葉を借りれば、「何年にもわたる低収益に苦しんできた普通株主を置き去りにし、取締役会の支持と引き換えに、優先株主に有利な条件を与えていることになる。」


スターボードが株主に向けた公開書簡にはこれらの内容がまとめられており、株主総会におけるスターボードとの選挙戦を見据えた票買いという保身、そのためには普通株主の利益を犠牲にすることも厭わない資金調達、業績が低迷しているにも関わらず高い報酬は維持されたままと辛辣な内容が続く。


そして現在の取締役会の意思決定プロセスと独立性には大きな懸念があり、普通株主の利益を守るためには取締役会の変革とスターボードによる継続的な監視が必要との見解を示す。



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CNBCのインタビューに答えるボックスのアーロン・レヴィCEO


会社側はKKRとの提携に関しては、テクノロジー投資家としての実績をもつ同社からの支援を仰ぐことが目的で、短期的にも長期的にも最良の結果が出せると反論する。


またボックス社は2018年以降に6人もの新たな取締役を採用していることからも現時点の取締役会の変更の必要性はないと主張。(現在の取締役は10名。)そして今回の5億ドルの買い戻しの意味については、「株主がボックス社とKKRの成長戦略を信任し、引き続き投資家として残るか」、あるいは「今すぐ投資資金を現金化して引き上げるか」を選択できる機会を創出していると反論。


もちろん公開買付による売却の機会は株主全員に与えられるが、それが8%を保有するスターボードに向けられた決裂のメッセージであることは明らかだろう。しかしスターボードはこの買い取りに応じるつもりがないことを明確にしている。(7/2、ボックス社はこの公開買付に全体の5.6%に相当する株式が集まったことを発表した。)


今回の戦いは、上場企業VSアクティビストの様相から、次第にファンドVSファンドの構図が色濃くなりつつある。ボックス社からすれば、今回の委任争奪戦に勝てば、取締役会を維持して長期展望を立てやすい。場合によってはこの邪魔なアクティビストを追い払うことができるかもしれず、KKRはまさにホワイトナイトになる可能性がある。


是が非でも勝ちたいボックス社は、テクノロジーに関するアドバイスよりも先に、KKRからコーポレートガバナンスに関する忠告を受け入れたようだ。それはアーロン・レヴィCEOが会長職を辞任してCEOとの兼務を解くとともに、スターボードから任命されたべサニー・メイヤー氏が取締役会の議長を務めるものだ。日本でも社外取締役が取締役会の議長を務めるケースは増加しているが、全てはコーポレートガバナンスの欠点を攻撃してくるスターボードとの戦いに備えるためだ。


まとめ


日本でもコーポレートガバナンスに対する取り組みはかなり進んできていると思うが、さらに筆者が必要と感じるのは、企業の新陳代謝を促す仕組みだ。米国の上場企業数は90年代をピークに約半数にまで減少しているが、日本の場合は逆に2倍に増加している。


企業の統廃合が必ずしもいいとは限らないが、現在のように緩和資金が溢れる局面では、ゾンビ企業が延命されているケースも多いだろう。社会のリソースが、将来性や競争力のない企業へ向けられれば、いつかその代償を背負うことになる。我々日本人は、需要のない箱物を作り続けてきた結果どうなったか、市場競争に敗れた企業への不必要な資本注入がどうなったかを思い出すべきだろう。


米国の場合、年金基金、運用会社、ヘッジファンド、議決権行使助言機関、独立社外取締役などが上場企業の経営を厳しくチェックする仕組みが機能しており、不正や怠慢を許さない風土が出来上がっている。そして創造の数だけ破壊があることも受け入れられる強い社会だ。


最後に

今回検証してきたボックス社とスターボード・バリューとの攻防は、最終的には日本の東芝と同様に取締役の選任を巡る戦いだ。そして仮にアクティビストが勝利した場合、その企業を単独で存続すべきかどうかの議論に発展していくだろう。


ボックスの場合、ポイントとなるのは現経営陣と取締役会が下したKKRとの提携が、企業価値の向上をもたらすかどうかである。またこの提携は、スターボードが送り込んだ独立社外取締役および委員会の承認を得たものであることも考慮する必要がある。


保身のための票買いだったかどうかは、結局後になってから判断するしかない。ただ実際問題、ボックスのようなテクノロジー企業にとって本当に必要なものはイノベーションにつながるアイデアや技術であり、そして買収戦略だ。KKRがそういった面でサポートして企業価値を高めることができれば、ファンドの名声はさらに高まり、他のテクノロジー企業からの信頼を得やすくなるだろう。


確かに取締役会を改革して経営の透明性を高めたり、コストカットや株主還元の強化によって企業価値を引き上げる余地はあるが、長期的な視点に欠け、根本的な問題の解決にはつながらないケースも多い。


間もなく開催される株主総会において、機関投資家がどのような判断を下すのかは、個人的にもかなり関心がある。しかしスターボードの試みが、少なくともボックス社に変革をもたらしたことは間違いないだろう。ファンドからのプレッシャーがなければ、恐らくKKRとの提携はなかっただろうし、経営陣がこれ程真剣に取り組んでいたかどうかも分からない。その意味でアクティビストが資本市場で大きな役割を果たしていることが非常によく分かる事例だと思う。


参考

WSJ、Bloomberg、CNBC、TechCrunch、日経新聞