急落したPinterest株に関する考察

PINS

パンデミック以降、急速な成長を遂げてきたピンタレスト(PINS)株だが、2Q決算を受けて株価は急落。



80ドル前後を推移していたピンタレスト株は現在60ドルを下回る。果たして終わってしまったのだろうか?

MAU(PINS)2Q/21
6月末時点のMAU(月間アクティブユーザー数)は4.54億人。米国9,100万人、海外3.63億人


急落の引き金となったのは、MAU(月間アクティブユーザー数)の減少だ。昨年の同じ期(20年2Q)からは9%増加しているが、21年1Q比では5%も減少したのである。一時的な要因と捉えることもできるが、会社側が7月になっても米国MAUの減少が続いていることを明らかにすると、投資感の不安は最高潮に達した。


(2Q決算発表時、7/27時点で米国MAUは前年比で7%減少、海外(米国以外)のMAUは5%増加している事が明らかにされた。)


経済活動の再開が進むに連れて、ユーザーがプラットフォームから離れ始めていることを知ると、同社株をカバレッジしているアナリストは次々と目標株価を引き下げている。JP Morganはニュートラルに格下げし目標株価を95ドル→68ドルへ、Evercore ISIは目標株価を98ドル→60ドルへと大幅に引き下げた。他にもモルガン・スタンレー、クレディ・スイス、バンク・オブ・アメリカが軒並み目標株価を引き下げている。


米国のユーザーは全体の2割程度だが、売上高の78%を占めており、米国MAUの減少は最も嫌気されている材料だろう。また7月の状況を考えると3Q(7-9月期)のMAUは、全体的にかなり厳しい数字になりそうだ。


ARPUという成長エンジンはまだまだ健在

これまでのピンタレストにはMAUとARPU(ユーザーあたり収益)という2つの成長エンジンがあった。確かに片方のエンジンは停止しそうだが、長期投資家はあまり悲観的になり過ぎる必要はないだろう。本物の飛行機さながらに、片方のエンジンだけでも目的地に辿り着くことは十分に可能だ。


2Q収益+125%=ARPU+89%+MAU+9%


2Qの前年比+125%という高い成長率は、その大半がARPUの上昇からもたらされたものだ。ARPUは+89%で、MAUの上昇はわずかに+9%だ。


Facebook,Snapchat,PinterestのARPUを比較


ARPU(Facebook、Snapchat、Pinterest)
ARPU(Facebook,Snapchat,Pinterest)


ARPU_US
【北米】ARPU(Facebook,Snapchat,Pinterest)

※ARPUに関してはSnapchatはDAU(デイリーアクティブユーザー)、FacebookとPinterestはMAUで計算。北米の範囲はPinterestは米国のみ。Facebookは米国とカナダ。Snapchatは北米にメキシコ・中米を含む。


ユーザーあたりの収益はFacebookの7分の1、Snapchatの半分以下とピンタレストのマネタイズは遅れており、ARPUの拡大余地はかなり大きい。このあたりの詳細については過去記事参照


2021.2.5 ピンタレストはコロナ下における最大の勝ち組企業の1つになろうとしている

2020.9.5 Pinterestへの投資に妙味あり

2020.4.19 ピンタレストは過小評価されている


ユーザー成長の鈍化はしばらく続くか

CEOのベン・シルバーマン氏はかねてよりピンタレストはSNSではないと語ってきた。日本の公式ブログでも、ピンタレストは未来の自分のためのツールと題して以下のように説明している。


「まず最初に Pinterest は SNS ではありません。

一般的に SNS と呼ばれる Facebook や Instagram などは今起こっている出来事や、過去に起きた出来事を「友達やフォロワーに発信する」ツールです。

それに対して、Pinterest は、発信ツールではなく、未来の行動のために「アイデアを集めておくツール」です。」


友人との共有をメインにしていないピンタレストの利己的なプラットフォームは、新たなサービスとしての革新性を備えているが、ネットワーク効果を発揮しにくいというデメリットが現れ始めているかもしれない。


ネットワーク効果とは、同じプラットフォームを利用するユーザーが増えることで、それ自体の価値が高まり、ユーザーを定着させるものだ。特に他人とのコミュニケーションを主体にしたサービスは、皆が同じプラットフォームにいる必要がある。しかし利己的なプラットフォームになる程その効果は薄く、ユーザーの好みに左右される。インスピレーションを得たり、アイデアを保存するという先進的な仕組みは非常に優れたものだと思うが、他のSNSよりもユーザーを選ぶサービスであることが分かりつつある。


そう考えるとピンタレストのMAUについては、当面FacebookやSnapChatの成長曲線をイメージすることは控えるべきかもしれない。


3Qの見通し

同社は3Qの売上高成長率は40%前半になると言う。2Qの+125%から見ると大幅に鈍化しているように見えるが、これは比較対象となる昨年の2Qと3Qの状況が異なることを考慮すべきだ。2020年の2Qの売上高成長率はコロナの影響でわずか4%だったが、2020年3Qは+58%と急成長した期だからだ。


Pinterestの売上高推移19年~21年


例えば2019年の同じ期と比較すると、21年2Qの成長率は2年間で+135%に相当する。一方で3Qのコンセンサスである+43%成長は19年からの2年間では+125%に相当する。仮に2Q並の成長率を期待するのであれば、「+49%の6.6億ドル」がターゲットになる。


課題


ARPU_PINS
2QのARPU


ライバル企業と比較してもピンタレストのARPUは低すぎるが、特に海外市場のマネタイズが遅れているのは気がかりだ。経営陣は、長期的視点とユーザーベースの最大化を口にしてきたが、MAUが減少に転じたことでその言い訳は通用しない。


米国ユーザーの収益の割合は、2Qに全体の78%と昨年の85%からは低下したが、依然として高い。米国MAUの伸びがなくとも収益は大きく伸びるだろうが、MAUに対する懸念を抑制し、さらに期待以上の成果を残すためには国際市場の開拓を急ぐ必要がある。しかしFacebookの「素早く動いて破壊せよ。」に見られる怒涛の快進撃と比較すると、ずいぶんノンビリした雰囲気を感じてしまう。国際的、戦略的な買収戦略もほとんどない。


2012年にFacebookが10億ドルで買収したインスタグラムは、今や1兆ドルもの時価総額を持つFacebookのかなりの部分を占めている。同じ年に楽天が主導した資金調達で15億ドルもの評価を受けたピンタレストはいまだ380億ドルに留まっている。


まとめ

コロナ時代の急成長企業として将来も安泰に見えたピンタレスだが、急速に暗雲が立ち込めている。今のところ証券会社による目標株価引下げは妥当な判断だと思うし、投資家は同社に対する時間軸をより長く持つべき時期に来ているだろう。


冒頭から述べた通りMAUとARPUという2つのエンジンのうち1つが機能しなくなっていることは事実だ。サービスの性質を考えると、ユーザーの減少は一時的なものとの考えは楽観的過ぎており、MAU増加トレンドは長期的にもかなり低めに見積もった方が良さそうだ。


ただ繰り返しになるが、ユーザーあたりの収益余地にはまだまだ魅力がある。ピンタレストのユーザーの6割は女性で、高所得者が多いことで有名だが、ARPUは他のSNSよりも高くなる可能性がある。2Qの「1.32ドル」は少なくとも2年以内にSnapChatの「3.35ドル」には迫るだろう。


フェイスブックは過去2年間(2019年2Qから2021年2Q)において収益を72%増加させたが、中心となる米国市場ではMAUはわずか6%しか増えていないが、ARPUは59%増加させている。


幸いバリエーションは大きく低下し、今期の予想PSRは14.5倍程度だ。スナップチャットの30倍を考えれば、かなり妙味はあるだろう。なにせ2Qの成長率はピンタレストの方が高く、粗利益率も79%とはるかに高いからだ。ビジネスのスピード感や国際戦略の面で若干の不安があることは事実だが、当ブログでは引き続き有望株として注目していきたいと思う。