8/5上場のeコマースプラットホームBigCommerceの株価は、既に公開価格の3倍以上
・デジタルコマースへ追い風。AmazonやShopifyのサプライズ決算によって最もホットなセクターに
・米IPO市場は6月の本格再開以降、活況が続く
まさにこれ以上ないタイミングでの上場だったが、特に過去5年間で株価が30倍となったShopifyの成功は多くの投資家を惹きつけたはずだ。Shopifyの2020年4-6月期決算における売上高成長率は、事前予想を大きく上回る+97%となり、eコマース業界がいかに巨大な需要を取り込んでいるかを明らかにした。
eMarketerによるデジタルコマースの見通し
・2020年の米国の実店舗の小売支出は今年14%減少するのに対して、eコマース向け支出は18%増加すると見られている。
・2020年の世界の小売支出に占めるeコマース割合は17%の3.9兆ドルに達すると見られているが、2024年までに21%の6.3兆ドルに達すると見られている。
BigCommerceの決算
・2019年度の売上高は1億1,210万ドルで前年比+22%
・2020年第1Qの売上高は3,317万ドルで前年比+29.7%
・2020年第2Qの売上高は3,550〜3,580万ドルで前年比+30〜31%の見込み
会社側が出した第2Qの予想成長率は、Shopifyの97%と比べるとあまりに大きく見劣りする。現在の時価総額は50.5億ドルだが、これは今期の予想売上高(+30%成長と仮定)の35倍程度であり相応の成長率が期待されている。しかし今月決算を発表した同じく同業のWix.comの第2Q成長率は+27.3%の2.36億ドルにとどまっており、Shopifyの1人勝ちの構図が浮かび上がる。
eコマースのマーケットは大きいが、Shopify以外にもAdobe傘下のMagento、WooCommerce、Volusionなど競合する企業は多い。当面はコロナを契機としたデジタルコマースの拡大の恩恵を受けるだろうが、Shopify並の成長を期待すると大きく失望する可能性が高い。
Shopifyの時価総額は1,212億ドル
ソフトウェア企業の時価総額ランキング
Microsoft1.58兆ドル(21/6予想売上高1,567億ドル)
Adobe2,126億ドル(20/11予想売上高127億ドル)
Salesforce1,776億ドル(21/1予想売上高201億ドル)
Oracle1,686億ドル(21/5予想売上高393億ドル)
Shopify1,212億ドル(20/12予想売上高26億ドル)
ServiceNow841億ドル(20/12予想売上高44億ドル)
Intuit793億ドル(20/7予想売上高74億ドル)
Autodesk508億ドル(21/1予想売上高37億ドル)
Workday426億ドル(20/12予想売上高42億ドル)
※上記および以下に出す数値や予想は、全て現地8月10日終値時点のもの。予想はアナリスト平均を使用。
Shopifyの時価総額はServiceNow、Intuit、Autodesk、Workdayなどを大きく上回るが、売上高ははるかに少ない。それを正当化しているのは高い成長率であり、2020年12月期の予想売上高は前年比+63.6%の25.8億ドルになると見られている。
成長率比較
Shopify+63.6%(20/12予想売上高26億ドル)
ServiceNow+27.5%(20/12予想売上高44億ドル)
Salesforce+17.4%(21/1予想売上高201億ドル)
Workday+15.5%(20/12予想売上高42億ドル)
参考
Twilio+40.4%(20/12予想売上高16億ドル)
DocuSign+35.2%(21/1予想売上高13億ドル)
コロナ特需によって大幅な成長が期待されるDocuSign(時価総額364億ドル)やTwilio(時価総額358億ドル)でも今期の予想成長率は35〜40%程度だ。しかしShopifyの時価総額は今や年間売上高(20/12予想)の47倍であり、(利益の47倍ではない)、時価総額が1,000億ドルを超える企業のバリエーションとしてはかなり高い。予想PERは424倍。ちなみに今期売上高(21/1)が3倍になると予想されるズームビデオのPSRは39倍でPERは192倍。
PSR比較
Shopify 47.0倍
Veeva System 27.8倍
DocuSign 27.6倍
Twilio 22.5倍
Atlassian 21.2倍
ServiceNow 19.1倍
Shopifyの時価総額は既に1,200億ドルあり、今後Adobeの2,000億ドルやSalesforceの1,700億ドル級に迫るかと言われれば、かなりハードルが高いように思われる。Adobeは屈指の高収益企業で売上高はShopifyの5倍近くあるし、Salesforceに至っては8倍近い売上規模を持つ。いかにeコマースが成長するとしても現在の株価は相当先の水準まで織り込んでいるため、投資妙味は極めて少ないように思われる。
また個人的にeコマースはサービスの差別化を含め、最終的にフルフィルメントサービスが勝負の鍵をにぎると見ている。eコマースプラットホームはライバルは多く、次第にオンライン上における差別化は難しくなり、フィジカル面の強化が必須となる。既にShopifyはフルフィルメントにかなりの投資を行っているが、今後は競争力を維持するためにさらなる負担がのしかかる可能性がある。