インデックスは、今後株式ファンドの7割以上を占める可能性がある。

「インデックス・ファンド」の父と呼ばれたジョン・ボーグル氏(バンガード創業者)が亡くなって1年が経つが、かつてアクティブファンドのマネジャーやウォール街のバンカー達から馬鹿にされていたインデックスファンドは、米国で最も主流な商品となった。昨年8月、米国の株式ファンドにおけるインデックスやETFなどのパッシブ比率が初めて50%を超えたが、足元その勢いは加速している。

BlackRockの運用資産額は7兆ドル超え


1月15日に発表されたブラックロックの決算報告をまとめると以下の通りだった。

・19年末の運用資産(AUM)は7.4兆ドルで、18年末の6兆ドルから+26%
・値上がりの影響を除いた純流入額は4,287億ドル(約45兆円)
・牽引したのは低コストETFである「iShares」シリーズ


7.4兆ドルという金額は、米銀最大手のJPモルガン・チェースの総資産額の3倍以上だ。今や世界最大の運用会社として有名なブラックロックだが、振り返れば2009年に英バークレイズ銀行からETF事業「iShares」を買収したことが同社の運命を変えた。米国では有料テレビ放送を解約し、Netflixなどの動画配信サービスへ切り替える「コードカット」が流行りだが、資産運用業界ではそれよりも早いスピードでアクティブファンドを解約し、インデックスファンドへ乗り換える動きが活発となっている。



ブラックロックとともにインデックス運用で有名なバンガードとステート・ストリートを合わせた運用資産額は16兆ドルを超える見込みだが、その一方でアクティブファンドからは資金が流出し続けている。




アクティブファンド大量解約の背景には、ファンドの大半が低コストのインデックスファンドに負け続けていることがある。これは恐らく誰もが知っていることだろうし、コストに見合わない投資をやめるのは当然と考えるだろう。しかし自体はそれに収まらないのである。米国で有名なミューチュアルファンド「Fidelity Contrafund」は過去3年、5年、10年、15年、その全てでベンチマークのS&P500を上回っているにも関わらず、昨年に残高が1割以上も減少した。



ウォーレン・バフェット氏がヘッジファンドを目の敵にし、インデックス運用を強烈に推奨していることは有名だが、アクティブ切りは、もはや損得勘定を超えたバブル的な勢いで進行しているのだ。確かに大半のアクティブファンドよりもインデックスが優位になっていることは明らかだが、なんでもかんでもインデックスの風潮が強くなりつつある。



不屈の名書であるチャールズ・エリスの「敗者のゲーム」やバートン・マルキールの「ウォール街のランダム・ウォーカー」などの書籍、インデックスファンドを生み出したバンガードグループは、投資家を正しい方向へ導いたと思う。しかし誰もがリサーチコストを支払うことを拒絶し、市場を検証することなく単にベンチマークに連動する証券だけを買うようになったらどうなるのだろうか?


インデックスファンドやETFは大量破壊兵器?


ある者はパッシブファンドを「大量破壊兵器」というが、その表現はあながち間違いではないだろう。パッシブは個別証券の内容を一切精査することもなく、機械的に対象となる全ての証券を買う「無秩序」なものであるからだ。少数派であった頃は、マーケットへのインパクトは気にされず、アクティブファンドが作り出す「市場価格」を受け入れるだけと言われたものだが、規模があまりに大きくなった今は違う。今後さらに拡大すれば、価格形成において重大な歪みを引き起こす可能性は高いだろう。



この事については、インデックスファンドの父であるジョン・ボーグル氏も亡くなる前に「インデックスが市場の大半を占めるようになることは国益にはならない。」と述べている。しかしインデックスファンドやETFに資金が流入する流れは、50%を超えた今も収まるどころかさらに加速している。このまま行けば向こう3年間で、米国株式ファンドにおけるパッシブ比率は7割近くまで拡大するのではなかろうか?




市場の大半をパッシブが占める根拠


確かにパッシブへの資金流入は市場価格に歪みを起こし、効率性を失わせるだろうが、それによってはじめてアクティブファンドの存在価値を生むとも言える。最終的にパッシブとアクティブの比率は7対3なのか8対2なのか、それは分からないが、いずれにしろコストを引いた後の平均リターンが横並びになるまでパッシブ化が進むだろう。つまりは市場が非効率化していくかもしれない。



もう何十年も前からアクティブファンドは負け続けているが、それでも数少ない勝者は存在した。しかし最近はそういったトッププレイヤー達も苦戦している。なぜアクティブファンドは市場平均を超えられないかということについては様々な議論があるが、バークシャー・ハサウェイの副会長マンガー氏は、WSJのインタビューにおいて「昔は競争相手が無能だったが、今はタフな相手ばかりで、出し抜くことが容易ではなくなった」と言う。事実、近年のバークシャー・ハサウェイのパフォーマンスはS&P500を上回ることが困難になりつつある。扱いに困るほどの大金を抱えていれば当然なのだが、以前ほど魅力的な投資機会が残されていない現状を現している。




今はウォーレン・バフェットやピーター・リンチが驚くべきほどの高いトラックレコードを出していた時代とは違う。情報化が進み、投資手法は洗練され、かつ成長企業は極端に限られるようになり、高いレベルを持ったアクティブプレイヤーが増えたのだ。市場を出し抜くことはますます困難になってきており、大多数のファンドが市場平均に負け続ける構図は、インデックス派が市場を埋め尽くすまで続くかもしれない。




市場の効率化に貢献してきたアクティブ派が減り、逆に市場を荒らすインデックス派が増加していけば、理論的に収益機会は増える。しかしインデックス派が50%を超えた今も大半のアクティブが負けているため、それが7割程度まで進むと考える漠然とした根拠だ。それによって市場の「価格機能」が低下し、資本効率を引き下げるかもしれないが、一部の投資家が、見返りのない過大なコストを払い続けるモデルはいつか破綻する。それにインデックス派がより高いシェアを持ち、業界全体の運用コストが低下すれば一概に悪いとも言えないだろう。



ただ市場を効率化させる存在が、いつまでも従来型のアクティブファンドとは限らないことには注意が必要だ。AIやビッグデータの活用によって、新たな投資手法が生み出される可能性はあるし、いずれにせよITの活用によりファンドの経費率はさらに低下していくだろう。足元ではアクティブ版ETFについて議論が進んでおり、かねてより障害となっていた情報開示の規制が緩和される見込みだ。



一方でインデックス型の運用会社はESGなどの対応に追われそうだ。リターンの向上が一円の価値ももたらさないファンドに取って、余計なことは全てコストとなるのだが、そこに投資先企業の命運を左右するほどの議決権が集まる状況は皮肉だ。ESGの面から批判を浴びているブラックロックは、最近「Climate Action 100+」に加入したが、今後は環境に配慮しない企業へ反対票を投じなければいけないし、そのための人を雇ってリサーチを行わなければいけない。



そういった背景を考えると、アクティブとインデックスのリターンが縮小するのは思ったよりもはやく訪れるのかもしれない。しかし余計な話だが、大量の議決権がインデックスファンドに集まる話もそうだが、経営者が普通株の10倍の議決権を持って独占したり、未公開市場がどんどんでかくなったりするなど、市場機能が低下しつつあることは心配だ。


まとめ

これまで述べたとおり、今後アクティブとインデックスのリターンは収斂していく可能性が高いのだが、とりあえず低コストのインデックスファンドやETFを保有することが最も合理的な戦略であるだろう。という当たり前の結論に落ち着いた。ただ90%以上の投資家は、何を買うかよりも、長期保有できるかどうかの方がはるかに重要なのであるが、そのあたりについては機会があれば書きたいと思う。