割高なマーケットと付き合うために大切なこと

株価のバリュエーションはどこまで許容すべきか

FactSetによると、S&P500の12ヶ月先の予想PERは21.7。これは過去5年平均の17.4、過去10年平均の15.6を大きく上回る水準だ。(2020/12/11付レポート)

従来の尺度で測るとすれば、現在の株価水準は明らかに割高であり、一部ハイテク企業に至ってはもはや理解不能な領域に達していると言えるだろう。

しかし仮に今がバブルだとしても相場から降りることは難しい。コロナ初期に撤退した投資家はいかにも賢明に思えたが、今のところ今年最大の敗者となる可能性が高い。緩和相場でマーケットから離脱するリスクも、また同様に大きなものだと認識させられる。

程度の差はあれどこの傾向は数年前から同じで、バリュエーションの拡大を容認できなかった投資家は常に割を食ってきた。前例のない、長期緩和相場は市場から金利を奪い、我々の判断基準を非常に難しくしている。

今月、ブリッジウォーター・アソシエイツの創業者であるRay Dalio氏は現在のマーケットについて『「Flood of Money」=「お金の洪水」が続く限り、株価収益率(PER)が50倍にならない理由はない。』と語った。これは勿論、極端な例を上げて現在の状況を表現しているのだが、まさに今、我々はどこまでバリュエーションを許容するべきなのか?という重要な問題に直面している。

現在のようにPERの拡大を正当化して投資にのめり込む行為は、バブル後期にありがちな危険な行動だ。また乗り遅れてはならないという市場心理のもとに、人々が人気企業やIPO株へ飛びつく様相もまた、20年前にFRB議長だったグリーンスパンが語った「根拠なき熱狂」を思い起こさせる。

マーケットがいつ調整するのかはもちろん誰にも分からない。またそれが暴落という分かりやすい結果になるのか、日本型の長期停滞パターンに陥るのかも知る由はない。ただ一つ言えるのは、悪くなる前に自分だけは逃げられるという妄想はあまりに甘いということだ。逃げることばかり考えていると、今度は逆にコロナ撤退組のように大きなチャンスを逸してしまうだろう。

本日はそんな環境下で、我々はどのようにマーケットと付き合っていくべきかということについて考えていきたい。結論から言えば、想定投資期間を10年近くに拡大し、過大なバリュエーション企業を避けることで対応していくしかない。今の株価水準は確かに割高ではあるが、向こう5〜10年の経済成長までは織り込んでいない。

この概念は投資の世界ではごく当たり前のなのだが、より理解を深めるために20年前のAmazonを振り返ることで検証していきたいと思う。

ドットコム・バブルを生き抜いたAmazon

Amazonの歴史

上場
1997年5月15日
公募価格は1.5ドル(分割考慮前では18ドル)

ドットコム・バブル最盛期
1999年12月9日
上場からわずか2年半で株価は当時最高値の113ドル。

ドットコム・バブル崩壊
2001年10月1日
株価は一時5.51ドルまで下落。これが2000年以降の最安値となった。

10年振りの最高値更新
2009年10月23日
好調な2009年7-9月期決算を受け、株価はおよそ10年振りに高値を更新した。

macrotrendsより引用

まとめるとAmazonはジェフ・ベゾスが1994年に設立してわずか3年で上場。上場から2年半で株価は75倍となり、そこから3年足らずでその95%を失った。その後高値を回復するのにおよそ10年間を要した。

ドットコム・バブル時のバリュエーションはどうだった?

1999年、Amazonは売上高16.4億ドル、3.9億ドルの赤字を計上した。ピーク時の時価総額はおよそ360億ドルで、これは年間売上高の22倍程だったことになる。

今日、PSR20倍という数字はソフトウェア企業では当たり前のようにあるが、Amazonのような小売企業ではかなり高い水準と言えるだろう。(ちなみに現在の予想PSRは4.2倍)

また1999年4月30日のForbesの記事では、8人いるウォール街のストラテジストのうち7人が、最も過大評価されている株式にAmazonを挙げていた。業績はもちろん、多くのアナリストがバリュエーションの問題を認識していたことが分かる。

Amazonの事例は我々に2つのことを教えてくれる。

「私たちはいつも今後2年間で起こる変化を過大評価し、10年間で起こる変化を過小評価してしまう。」

Microsoftの創業者であるビル・ゲイツ氏の言葉

90年代後半に、インターネット企業が世界を制するという人々が抱いた夢は、20年たった今実現している。

ドットコム・バブル時にAmazon株を買った投資家は、その後数年間は愚かな投資家のレッテルをはられただろう。当時、ウォーレン・バフェット氏は向こう見ずな投資家達を指して催眠術にかけられていると揶揄したことは有名だ。またシンデレラのストーリーを用いて、新興企業はカボチャとネズミに戻るとの皮肉も語っていた。

しかしウォーレン・バフェット率いるバークシャーハサウェイはその19年後に、はるかに高い価格でAmazonへの投資を始めた。 

ドットコム・バブル時にAmazonやeBay、Microsoftなどに投資をした人々の先見性は確かだったのだ。しかし最大の誤算はバフェットが指摘したように、あまりに高過ぎるバリュエーションで投資したことにある。

Amazonが最盛期の株価を取り戻すのに10年かかったことを考えれば、いかに異様なバリュエーションだったか分かるだろう。有望な企業であっても過大なバリュエーションで手を出せば、大怪我する典型的な例の一つだ。

しかし話には続きがある。仮にドットコム・バブル時の最高値113ドルで掴んだとしても今に至るまで保有することができたならば、なんと28倍ものリターンを得ている計算になる。20年でリターンは+2,700%、年率換算でも+135%となる。ドットコム・バブル時に16億ドルそこそこだったAmazonの売上高は今年3,800億ドルに達すると見られている。

Amazonの例は極端だとしても10年〜20年という歳月は企業の価値を数十倍に引き上げる破壊力がある。これは2、3年で2倍を狙うよりもはるかに確率が高いのではないだろうか。ビル・ゲイツ氏が言うように我々は自らの手で2年先のバリュエーションを過大にし、10年先の成長を忍耐強く我慢できない傾向があるからだ。

「時間」の破壊力

毎年10%成長する企業を考えた時、利益が10倍になるために要する時間は25年。

20%成長で13年、30%成長で9年、40%では7年だ。投資成果を最も引き上げる手段は「時間」。考えるべきは投資の段階で、30-40%の成長が5年続いてもPERが40、50倍とかPSRが20倍以上というのはかなり高過ぎると思う。もちろん時間軸を長く取れる投資家ほど、バリエーションの許容度は引き上げてもいいだろうがやはり限度はある。

最後に

現在の世界的な金融緩和は、市場を下支えする一方で、債務を膨張させ、新陳代謝を後退させている可能性が高い。その代償は将来の低成長という形で我々に返ってくるだろう。それを打破するにはイノベーションしかない。

ITバブル下に人々が予想したインターネット企業の躍進は10年程度で現実化し、20年たった今も続いている。クラウドやソフトウェア、AI、フィンテック、バイオテクノロジー、自動運転。これらはまだまだ序章であるが、大半の株価は数年先の水準まで織り込まれている。

株価が下がったタイミングで投資することはもちろんベストだが、本当に重要なことは10年以上にわたって付き合う覚悟があるかどうかではなかろうか。

Amazonの株価推移

Year YearClose

1998 53.55

1999 76.13

2000 15.56

2001 10.82

2002 18.89

2003 52.62

2004 44.29

2005 47.15

2006 39.46

2007 92.64

2008 51.28

2009 134.52

2010 180

2011 173.1

2012 250.87

2013 398.79

2014 310.35

2015 675.89

2016 749.87

2017 1169.47

2018 1501.97

2019 1847.84

2020