ハードウェアへの回帰2

ハードウェアへの回帰1

米IT大手は、サイバー空間を支配して莫大な利益を上げている。一方で世界のハードメーカーはこれまで単なる物売りに甘んじていたが、自社の端末を素通りする情報の重要性にはとっくに気が付いている。最近はよくIoTやサイバーフィジカルなどの言葉が聞かれるようになったが、例えば日本のシャープは家電メーカーを脱却し、IoT企業への変貌を目指している。


前回、グーグルがスマホ端末は製造せず、頭脳であるOSをメーカーへ提供することで利益を上げるモデルを紹介した。しかしそのグーグルはスマホ・PCへの参入を発表しているのだが、その背景には同社が将来のリスクを敏感に感じてる証拠でもある。


そのはリスクとは「ハードメーカー優位の時代」と「OSの内製化」である。


アップルは高額のスマホを販売して稼ぐだけではなく、そこから生まれるサービス収入が爆破的に伸びている。それらは全て自社で手掛けるiosのおかげだ。その傍らOSを支配されたAndroidメーカーは、ハードの性能や価格で勝負するしかなく、Android勢同士で際限ない競争を繰り広げている。


そのほとんどが中韓のメーカーであるが、アップルのビジネスモデルに対して羨望の眼差しを送っているはずだ。特にスマホ販売台数がピークアウトした今、将来に向けた大きな変化を望んでいることは間違いない。




しかしサムスンは既に独自OSである「Tizen」を展開しているが、撤退の噂がなされるほど散々な有様だ。むしろ怖いのは中国勢である。中国はいずれ国をあげて次世代のOSの開発に臨むことは間違いない。くしくも今年は米中貿易摩擦の影響で、中国製OSの重要性はさらに高まる契機となった。

事実、ZTE同様に米国市場から締め出されている世界2位のスマホメーカーであるファーウェイは独自OSを開発していることが判明した。


iosやAndroidのレベルは高く、中韓勢がいかに努力しようがそう簡単には追いつけるものではない。しかしかといって現状のままではいずれ淘汰されるのは明らかだ。現代社会では販売するだけではなく、いかにそれを安定的に継続できるかが重要だからだ。

今後大半の企業がサブスクリプションのビジネスモデルへ移行すると見られているが、その際に最も重要なものは顧客情報であり、ハードメーカーも情報収集を最優先にビジネスを進めていかざるえないだろう。





そういう事情を鑑みれば、グーグルはいつまでもAndroidを搭載してくれるとは限らないという危機感も持ってもおかしくない。もしかしたら近い将来、お金を積んで載せてもらうことになるかもしれない。Pixelなどのハード参入はそういった未来へのヘッジの役割を果たすことにもなる。

これは他のソフトウェアメーカーで既に起きている。それはスマホのOS争いに敗れたマイクロソフトだ。Surfaceの投入は自社のソフトウェアを売るための戦略で、office365の成功はクラウドとともに独自のハードを持ったことが勝因でもある。もし従来通りソフトのみにこだわっていたら無料のソフトウェアに侵食されていたかもしれない。




またハードを持つことの優位性は他にもある。例えばフェイスブックはアップルに散々煮え湯を飲まされている。ティム・クックとザッカーバーグが犬猿の仲であることは有名だが、アップルはiPhoneとiMessengerを抱き合わせることでメッセンジャーアプリ市場で優位に立とうとしている。さらにアップルストアではフェイスブックのアプリが削除されたこともあった。iPhoneのフィールドではあくまでアップルが絶対的な存在だ。


これまでIT大手のハード回帰の背景を色々と述べてきたが、まとめるとハード側のビジネスモデル変換を契機にソフトやOSを支配することが困難になる可能性があるということだ。ソフトのようなうまみのあるビジネスのみを展開できる時代は長く続かない可能性があり、独自のハードも持たないと成り立たない時代が来るリスクへの備えだ。

また欧州を中心とした独占禁止の流れもこの動きに拍車をかけていると思われる。


しかし散々言っておいてなんだが、確率的にはまだまだAndroidは安泰である可能性の方がはるかに高い。スマホOSの8割を占める同社の未来は明るく、しかも競争を含めた次なる展開に移るまでには相当な時間があり、その間に打てる手は十分ある。ハードへの参入はヘッジだと述べたように、王道はOSの圧倒的な支配だ。もしそれが体現できれば、これまで心配は全て杞憂に終わる。


Bloombergによるとグーグルは既に次世代のOS開発に着手していると報道がある。「Google Fuchsia」と呼ばれるこのプロジェクトはデバイスの増加とともに露わとなったAndroidの限界を克服し、Chromeなど複数にまたがったOSを統合する悲願でもある。特に音声やセキュリティ分野はAndroidの初期構想には含まれておらず、改善が必要な分野であると言われている。デバイスごとに複数のOSがまたがっている現状を改めることにより開発者へのメリットも大きい。

ハードを伴うサービスが求められれば利益率は確実に落ちる。バランスシートを使ってハードの製造・開発・研究が求められるからだ。アップルのようなケースはまれだと思った方がよく、サービスを提供するためのツール(コスト)となってくだろう。


もちろん事業領域をハードまで広げることで、情報収集やサービス提供の観点からプラスになることも多いが、組織は肥大化するし、競争相手も多い。あくまで最先端の頭脳だけを作り続けられる、かつてのビジネスモデルが魅力的だ。しかしそうは言えない時代が迫りつつある気がする。


最後に、現在最も将来性があると見られているハードは車だ。米中のIT、それと日独の車メーカーがしのぎを削っている。日本は、今のところハード面の優位性はあるがサイバー空間を支配された今のままでは厳しいであろう。トヨタがソフトバンクに接近するのもやはりモビリティサービスを見据えたものである。単なるハードメーカーからの脱却、それにはどんなサービスを付加すべきなのは分からない。ただオートOSを支配するのに最も近いのはグーグルを筆頭とする米ITである。


しかしこれまで述べた時代が到来するとするならば、チャンスが訪れるのはハードに強い日本企業である。日本はこれからまさに岐路に立たされようとしているのではないだろうか?それは単なる製造業から脱却できるかどうかの瀬戸際だ。日本が一番苦手な情報分野のサービスを拡充できるかどうかは今後十数年の未来を左右していくだろう。