ハードウェアへの回帰1

近年、米IT大手が続々とハードウェア事業へ参入を表明している。スマートスピーカー、PC、タブレット、スマートフォン。ハードと無縁と思われたフェイスブックも今月スマートディスプレイ「Portal」を発売する。




随分と昔にハードは終わりソフトと時代と言われ久しい。実際にその通りに時代は動いているのだが、なぜIT大手は今更ハードウェアへ参入をするのだろうか?

確かにスマートスピーカーはPCやスマホに変わる新たなデバイスとして重要だ。AI時代の要となる可能性すらある。ただえそれを除いても旧来からあるPCやタブレットなどのハード参入は顕著であり、その背景を読み解いていきたい。


ここ数年を見れば、ソフトウェア企業やインターネット企業は、一般的なハードを製造する企業に比べて圧倒的に利益率も成長率も高い。それどころかハード事業の運営は極めて厳しいと言えるだろう。それは日本の電機メーカーを見れば一目瞭然で、特にハイテク機器に関しては中韓勢が席巻し、熾烈な競争を極めている。



私は、2011年にグーグルがモトローラ・モビリティの買収を決めた時に、なぜわざわざ儲からないハードへ参入するのか全く理解できなかった。(実際はライセンスの問題が重要であり、グーグル自体も本気ではなかったことが分かったが。)

当時は既にAndroidを採用するSAMSUNGやHTCを筆頭にAndroidは7割近い大きなシェアを持っていたし、優位性もないモバイル端末への参入はリスク以外の何物でもないと感じていた。実際に買収したモトローラ事業は赤字を垂れ流し、買収からわずか1年半強でLenovoへ売却されることとなった。






そのグーグルは2016年に再び自前の「Pixel」製品を携えてスマホ・PC市場へ帰ってきた。2017年にはHTCのモバイル部門を買収し、その規模を拡張させてきている。しかしスマホの出荷台数は2017年に初めて前年割れとなり、PCの販売台数は10年以上前にピークを打っている。スマホの高額化もあり、端末の利用期間は増え続け、既に市場はパイの取り合いとなりつつある。そんな状況だ。


その中でもハード業界で大成功を収めているアップルのような企業は確かにある。2018年9月期通期の売上高は前年比+16%の2,656億ドルに達し、利益も前年比+23%の595億ドルで過去最高となった。

そのアップルは売上高2,656億ドルのうちiPhone・ipad・Mac・Watchなどのハード部門が2,280億ドルと85%を占める。驚くべきは販売台数が前年とほぼ同じであったにも関わらず、利益は2割以上に拡大していることだ。これはサービス収入の拡大もあるが、iPhoneを中心とした値上げによるものが大きい。だが、グーグルがそれを目指してるようには到底思えない。



これまで私はアップルに対して非常にリスクの高い企業とみなしてきた。なぜならアップルが持つ時価総額1兆ドルの価値、その大半がiPhoneから生み出されるからだ。

過去を振り返れば携帯端末は常に競争にさらされてきた。事実BlackBerryもノキアも淘汰され、数兆円の時価総額を吹き飛ばしたが、それは携帯に限らずハード業界で日常的に起こる光景である。


アップルがハードとサービスの両方で成功を収めているという表現は正しい。しかしアナリスト達はiosのラインセンス料、アップルストア、アップルペイなどのサービス部門を賞賛し、端末販売に依存しない体制へ移行していると言う。しかしこれらは全く別物の2つの事業があるわけではない。

iPhoneの売上高は全体の6割程度ではあるが、サービス部門の大半もiPhoneから生み出されている。万が一ユーザーがAndroid携帯へ移るようなことがあれば、どちらも失うのだ。競争の激しいスマートフォンというハード機器に、1兆ドルの命運が乗っかっていることにリスクを感じていないならそれは鈍感だと私は思う。


ちなみにスマートフォンの売上台数1位はサムスン、2位はファーウェイ、3位がアップル、以下OPPO、Xiaomiが続く。アップル以外はAndroidを使用しており、グーグルはアップル以外がどこが勝とうが関係なく、ハードへの依存度は極めて少ない。ライセンスを付与してOSを拡散し、うまみのあるネットビジネスを展開する方がはるかに優秀に見える。


しかしそれでもハードへ参入する理由はなぜだろうか?続く。