テンセントの未来2
中国を語る上で私には忘れられない一枚である。米中関係が冷え込む現在では考えられないが、現代の世界で米国のトップがこれほど一堂に会することはそうそうないだろう。多くの米IT企業にとって中国進出は悲願である。それほどに中国のマーケットは大きい。テンセントは売上の9割が中国国内であるが、グローバルで稼ぐ大半の米企業よりも高い時価総額を持つ。
ただアリババやテンセントの投資家が今後も報われるためには、間違いなく海外での成功が不可欠だ。これまで成長のエンジンとなってきた国内のマーケットは成長鈍化に加えて競争激化は明らかとなりつつあり、海外に活路を見い出せなければ高いバリエーションに応えることはできない。しかし米国への進出は厳しい状況だ。アリババのジャック・マーは米中の関係悪化が20年続くと予想している。テンセントのポニー・マーは、この世界で一度大きな失敗を犯せば二度と立ち上がることはできないと語るが、今後数年間の海外戦略は同社の分岐点となろう。
現実的な実力を見れば中国企業に海外を席巻する力はない。確かに規制に守られてハイテク企業は大きく育ったが、Fintecを除いてほとんどが米国の模範だ。しかもFintecと言っても提供する決済システムはNFCでもBluetoothでもなく、QRという2次元コードによる代物だ。中国は技術というよりもモバイルやキャッシュレスの文化を拡大することで発展してきた経緯がある。
それでも国の莫大な補助金や海外企業への積極的な投資で、昔と比べれば世界との技術的な差は縮まっている。とは言え、未だにイノベーションの大半は米国で生まれているように米一強体制は変わらない。同じ土俵でガチンコでぶつかり合えば、結果は火を見るよりも明らかだ。
それでも私はテンセントやアリババが今後躍進する余地は大きいと考えているのだが、理由は大きく分けて2つある。1つは中国企業の投資力が米国に劣らぬ規模となっていること。もう1つは対アジア戦略の優位性だ。
今後最も重要と考えられるインドや東南アジアが置かれている状況は数年前の中国に酷似しており、自らが歩んできた経験が生かせる点で有利だ。アジアの多くの人々は銀行口座もクレジットカードも持っておらず現金主義であるが、少し先を行くインドでは現在急速に電子決済が進んでいる。その中心を担うPaytmの筆頭株主はアリババだ。テンセントやアリババは明らかにアジアに照準を合わせ、現地企業への投資を足がかりに規模を拡大しつつある。
またテンセントに関して言うと、ゲーム事業は世界のトッププレーヤーとして君臨する可能性は高く、e-sportsの分野でも存在感は増していくだろう。これらはアジア戦略に関しても貴重なツールになると予想する。
■テンセントの投資戦略
中国は時価総額が10億ドルを超える企業、いわゆるユニコーンを驚異的なペースで生み出しているが、テンセントは投資ファンドとして大きなリターンを得ている。2017年に上げた利益715億元(約1兆1941億円)のうち約4分の1は保有株の値上がり益によるものだ。さらに本業の利益と合わせて投資ペースを拡大させている。WSJによると2013年以降に277社の株式を取得し、うち2017年は80社に出資している。同期間の数字では、日本のソフトバンク175社、アリババの111社に比べて格段に多く、投資先は中国が67%で米国が23%、インドが2%となっている。中国の有望企業である美団点評、滴滴出行、今日頭条、快手などはテンセントの投資先だ。
中国はBAT(バイドゥ・アリババ・テンセント)などのIT大手、国内に1000以上存在するVC、さらには政府機関自らが積極的にベンチャー投資を行い、世界全体でも見ても存在感は増してきている。同じくWSJによると2017年の世界ベンチャー投資額全体のうちアジアの投資家が占める割合は40%にも上り、44%の米国勢に迫る勢いだ。アジア勢のシェアは10年前の5%から急速に拡大しており、今後シリコンバレーのお株を奪う勢いだ。
アジア進出においてはテンセントのライバル、アリババが先行している。東南アジア最大のEC企業Lazadaを皮切りに、インドネシアのTokopedeia、インドのSnapdeal、同じくインドの決済Paytmなどの有力企業へ出資している。アリババのジャック・マーはここ数年間でアジアの首相クラスとの会談を通じ、長期的な関係も築きつつある。特に東南アジアにおいてLazadaの存在感は抜群だが、同社が手がける決済システムはアリペイに名が変わった。ライバルのテンセントはアジア向け投資においてインドのOLA、インドネシアのGOJEKなどの配車サービスに投資している。また東南アジアでEコマースを手がけ、Lazadaのライバルでもあるシンガポールのseaへも出資している。
アジア諸国は中国のネット企業のノウハウを吸収し、中国企業はアジアでのプレゼンスを高める関係が続いている。東南アジアのインターネット人口は中国、インドに続く莫大なマーケットであり、数年後、大きな成果として返ってくる可能性がある。ただし日本の楽天が撤退したように、アジアにおける競争は年々激化しつつあり、勝者が決まる数年間は耐える時期が続くかもしれない。
テンセントに関しては欧米への投資にも積極的だが、テスラやスナップチャットなど眉をひそめたくなるものも多い。さらに昨年の利益の4分の1を占めた、投資の利益などというものは気まぐれで当てにならないことも確かである。しかしグーグル、フェイスブック、アップルなどは同じように将来有望な企業を次々と買収することで規模を拡大し、成功してきた。テンセント自体も目先の投資利益よりも、将来を見据えて色々と抑えておきたいというのが本音であろう。
それでも同社の儲かりそうなものは片っ端からというのはコンセプトは危険をはらんでいる。同社は投資銀行を介さない投資が多いのは有名だが、それを率いるのは Goldman Sachs出身の2人だ。投資ファンドさながらに本業と異なる投資先も多く、その点はアリババと大きく異なるところだ。しかし中国企業にとって、国内で得た莫大な利益を軸に海外の有望なものを買っていくというプロセスは非常に合理的かつ戦略的と言えるだろう。
続く。
2015年に習近平総書記が米国を訪問 |
中国を語る上で私には忘れられない一枚である。米中関係が冷え込む現在では考えられないが、現代の世界で米国のトップがこれほど一堂に会することはそうそうないだろう。多くの米IT企業にとって中国進出は悲願である。それほどに中国のマーケットは大きい。テンセントは売上の9割が中国国内であるが、グローバルで稼ぐ大半の米企業よりも高い時価総額を持つ。
ただアリババやテンセントの投資家が今後も報われるためには、間違いなく海外での成功が不可欠だ。これまで成長のエンジンとなってきた国内のマーケットは成長鈍化に加えて競争激化は明らかとなりつつあり、海外に活路を見い出せなければ高いバリエーションに応えることはできない。しかし米国への進出は厳しい状況だ。アリババのジャック・マーは米中の関係悪化が20年続くと予想している。テンセントのポニー・マーは、この世界で一度大きな失敗を犯せば二度と立ち上がることはできないと語るが、今後数年間の海外戦略は同社の分岐点となろう。
現実的な実力を見れば中国企業に海外を席巻する力はない。確かに規制に守られてハイテク企業は大きく育ったが、Fintecを除いてほとんどが米国の模範だ。しかもFintecと言っても提供する決済システムはNFCでもBluetoothでもなく、QRという2次元コードによる代物だ。中国は技術というよりもモバイルやキャッシュレスの文化を拡大することで発展してきた経緯がある。
それでも国の莫大な補助金や海外企業への積極的な投資で、昔と比べれば世界との技術的な差は縮まっている。とは言え、未だにイノベーションの大半は米国で生まれているように米一強体制は変わらない。同じ土俵でガチンコでぶつかり合えば、結果は火を見るよりも明らかだ。
それでも私はテンセントやアリババが今後躍進する余地は大きいと考えているのだが、理由は大きく分けて2つある。1つは中国企業の投資力が米国に劣らぬ規模となっていること。もう1つは対アジア戦略の優位性だ。
今後最も重要と考えられるインドや東南アジアが置かれている状況は数年前の中国に酷似しており、自らが歩んできた経験が生かせる点で有利だ。アジアの多くの人々は銀行口座もクレジットカードも持っておらず現金主義であるが、少し先を行くインドでは現在急速に電子決済が進んでいる。その中心を担うPaytmの筆頭株主はアリババだ。テンセントやアリババは明らかにアジアに照準を合わせ、現地企業への投資を足がかりに規模を拡大しつつある。
またテンセントに関して言うと、ゲーム事業は世界のトッププレーヤーとして君臨する可能性は高く、e-sportsの分野でも存在感は増していくだろう。これらはアジア戦略に関しても貴重なツールになると予想する。
■テンセントの投資戦略
中国は時価総額が10億ドルを超える企業、いわゆるユニコーンを驚異的なペースで生み出しているが、テンセントは投資ファンドとして大きなリターンを得ている。2017年に上げた利益715億元(約1兆1941億円)のうち約4分の1は保有株の値上がり益によるものだ。さらに本業の利益と合わせて投資ペースを拡大させている。WSJによると2013年以降に277社の株式を取得し、うち2017年は80社に出資している。同期間の数字では、日本のソフトバンク175社、アリババの111社に比べて格段に多く、投資先は中国が67%で米国が23%、インドが2%となっている。中国の有望企業である美団点評、滴滴出行、今日頭条、快手などはテンセントの投資先だ。
中国はBAT(バイドゥ・アリババ・テンセント)などのIT大手、国内に1000以上存在するVC、さらには政府機関自らが積極的にベンチャー投資を行い、世界全体でも見ても存在感は増してきている。同じくWSJによると2017年の世界ベンチャー投資額全体のうちアジアの投資家が占める割合は40%にも上り、44%の米国勢に迫る勢いだ。アジア勢のシェアは10年前の5%から急速に拡大しており、今後シリコンバレーのお株を奪う勢いだ。
アジア進出においてはテンセントのライバル、アリババが先行している。東南アジア最大のEC企業Lazadaを皮切りに、インドネシアのTokopedeia、インドのSnapdeal、同じくインドの決済Paytmなどの有力企業へ出資している。アリババのジャック・マーはここ数年間でアジアの首相クラスとの会談を通じ、長期的な関係も築きつつある。特に東南アジアにおいてLazadaの存在感は抜群だが、同社が手がける決済システムはアリペイに名が変わった。ライバルのテンセントはアジア向け投資においてインドのOLA、インドネシアのGOJEKなどの配車サービスに投資している。また東南アジアでEコマースを手がけ、Lazadaのライバルでもあるシンガポールのseaへも出資している。
アジア諸国は中国のネット企業のノウハウを吸収し、中国企業はアジアでのプレゼンスを高める関係が続いている。東南アジアのインターネット人口は中国、インドに続く莫大なマーケットであり、数年後、大きな成果として返ってくる可能性がある。ただし日本の楽天が撤退したように、アジアにおける競争は年々激化しつつあり、勝者が決まる数年間は耐える時期が続くかもしれない。
テンセントに関しては欧米への投資にも積極的だが、テスラやスナップチャットなど眉をひそめたくなるものも多い。さらに昨年の利益の4分の1を占めた、投資の利益などというものは気まぐれで当てにならないことも確かである。しかしグーグル、フェイスブック、アップルなどは同じように将来有望な企業を次々と買収することで規模を拡大し、成功してきた。テンセント自体も目先の投資利益よりも、将来を見据えて色々と抑えておきたいというのが本音であろう。
それでも同社の儲かりそうなものは片っ端からというのはコンセプトは危険をはらんでいる。同社は投資銀行を介さない投資が多いのは有名だが、それを率いるのは Goldman Sachs出身の2人だ。投資ファンドさながらに本業と異なる投資先も多く、その点はアリババと大きく異なるところだ。しかし中国企業にとって、国内で得た莫大な利益を軸に海外の有望なものを買っていくというプロセスは非常に合理的かつ戦略的と言えるだろう。
続く。