VisaがPlaidを買いたかった理由

PlaidのWebページより

VisaがPlaidへ買収話を持ち掛けた背景には、急成長するフィンテックサービスへの関心とは別に、将来の脅威を手中に収めておきたいとの戦略に基づくものだろう。それはまさにFacebookがInstagramを買収した過去を思い起こさせるが、当局は正式に「NO」を突きつけた。

Plaidのアプリケーションはオープンバンキングを支援し、より安価なACH取引を促進するもの

カード社会の米国では、VenmoやAcorns、Robinhood、TransferWiseなどの人気フィンテックサービスのアカウントへ資金を充当する際にも、デビットカードでチャージすることが一般的だ。VisaやMasterCardはトランザクションごとにフィーを徴収して収益を上げている。しかしPlaidは銀行口座とフィンテックサービスをシームレスに接続するAPIを提供することで、※ACH取引を支援し、カードネットワークを通さない安価な決済手段をサポートしている。

※ACHとはAutomated Clearing Houseの略で、銀行間送金のネットワークのこと。手数料が安く、給与の支払いなどで日常的に利用されるが、とにかく遅いという致命的な欠点がある。

PlaidはACHの欠点を補うことでビジネス化

カード決済された資金は確実に保証されるため、取引を即実行に移すことが可能だ。しかしACHのような送金が完了するまでに数日かかる仕組みでは、取引の速度が大きく損なわれる。入金が担保されていない状況で取引を実行することは、カード手数料を節約する以上のリスクがある。

そこでPlaidの役割は顧客に支払い能力があるかを確認し、リアルタイムのACH取引をサポートすることにある。具体的には実際に顧客の同意を得た上で、銀行口座へアクセスして十分な資金があるかを確認している。提携する銀行は11,000を超え、昨年からは不正取引を防止する米Vestaと提携し、ACH取引の保証ビジネスも手掛けるなどビジネスを拡大している。

データアグリゲーターと呼ばれるPlaidは、顧客の口座残高を確認するたびに取引相手のフィンテック企業からフィーを徴収している。これは悪い言い方をすると、ユーザーの口座を盗み見ることで商売にしているとも言えるのだが、実際にプライバシーやセキュリティの観点からPNCやJPモルガンといった銀行からの反発も大きい。しかしこの取り組みがカードネットワークに依存しない新たな決済網を構築していることは事実であり、Visaが手に入れようとする最大の理由でもある。

仮にVenmoのユーザーがACHで残高を充当し、薬局チェーンCVSなどでVenmoのQRの支払いを行った場合、カードネットワークは一度も利用されないことになる。米国においてカードはまだまだ支払いの中心であり続けるだろうが、VenmoやPlaidといったフィンテック企業はカードネットワークにとってはまだ見えぬ脅威となり得る可能性があるだろう。

VisaにとってPlaidの買収破綻は、フィンテック企業との取引拡大を見込んだ同社の戦略を狂わせるとともに、一方でPlaidのライバルであるFinicityの買収を認められたMasterCardとの競争環境に問題が生じる可能性がある。PlaidやFinicityなどのデータアグリゲーターはフィンテック企業、消費者、銀行の仲介を行う重要なポジションにあり、それを手にできなかった事は痛い。53億ドルで買収する予定だったPlaidは、この1年間で顧客数が60%増加したと言うが現在の評価額は限りなく100億ドルに近くなっているだろう。

ただPlaidにとっても銀行連合がFidelity、クリアリングハウスとともに新たに立ち上げたAkoya、MasterCardの支援を受けるFinicity、Yodleeなどとの競争も待ち受けるが、ビジネス的にも差別化できる要素は少ない。Visaの傘下となることで得られる支援やグローバル展開のサポートも一からで、司法省が下した判断はVisa、Plaid双方にとって厳しいものとなった。