アドビ株の現状について

デジタルエクスペリエンス事業の鈍化は懸念事項

アドビ(ADBE)の株価は、8月以来の安値水準となっているが、本日は今後の見通しについて解説したいと思う。まず足元の状況だが、先週末の終値447.1ドルは9月につけた過去最高値536.88ドルからは既に17%近く下落している。これはもちろんマーケット全体の悪化も影響しているのだが、個人的には前回決算の内容とバリュエーションを考えれば極めて妥当な調整と見ている。現在の株価でも2020年度(11月までの会計期間)の予想PERは45倍、来年度の2021年の予想ベースでも40倍と決して過小評価ではない。

むしろ9月に発表された3Q決算後に目標株価を引き上げ、ゴリ押ししていたアナリストはたくさんいたが本当にセンスがないなと思う。私は決算後のリターンがS&P500やNASDAQ指数よりも大きく下回っていることに何の違和感もない。


クリエイター向けソフトや電子文書で圧勝するアドビにとって、デジタルエクスペリエンス事業は新たな収益源として重要性が高く、今や売上高の26%を占めるようになった。しかし2Q、3Q決算では成長鈍化が鮮明で、さらに会社側は4Qの成長率はゼロになると言う。この状態では全体の成長率はおよそ15%程度に抑制されるためアナリストが提示する目標株価550ドル(PER49倍)はさすがに時期尚早だったと思う。

デジタルエクスペリエンスの成長率

1Q(12-2月期) +15.5% 8.58億ドル

2Q(3-5月期) +5.4% 8.26億ドル

3Q(6-8月期) +2.1% 8.38億ドル

4Q(9-11月期)会社予想は±0予想

今後の展開について持論を述べれば、懸念されるデジタルエクスペリエンス事業鈍化が続く限り、短期的なリターンはかなり限定されるはずだ。しかしアドビの本源的価値の大半を占めるクリエイティブソフトやドキュメント事業の輝きは一切失われておらず、長期的なビジョンには何ら変更はない。つまり投資家はしばらくの間は株価が停滞する理由さえ理解し、ゆっくりとした成長を受け入れるつもりがあれば慌てる必要はないということだ。

4Qの決算コンセンサス

また12月に発表される予定の4Q決算コンセンサスはかなり低い。したがって決算が予想を下回り、目先株価が400ドルを大きく下回るような展開にはならないだろう。

第4Q(9-11月期)の予想コンセンサスは売上高が前年同期比+12.3%の33.6億ドル。EPSが同+16.2%の2.66ドル。仮に会社側の言うとおり4Qのデジタルエクスペリエンスの成長がゼロだとしても、デジタルメディア部門(クリエイティブ・ドキュメント)の成長率が最低17.7%以上あれば売上高予想はクリアする計算になる。

デジタルメディア事業の成長率

1Q(12-2月期) +22.1% 21.69億ドル

2Q(3-5月期) +18.1% 22.32億ドル

3Q(6-8月期) +19% 23.37億ドル

4Q(9-11月期)会社予想は最大+18%

1Q〜3Qの平均成長率は+19.7%だが、4Qにおいてもまずもって18%を下回ることはまずないだろう。ただ予想は上回るだろうが、サプライズの可能性も極めて低い。

そもそもデジタルエクスペリエンスが不調な理由は?

事業の概要については過去記事を参照。デジタルエクスペリエンス事業の歴史は浅く、2009年に買収した「Omniture」を皮切りに、2018年にeコマースのMagento、マーケティングオートメーションのMarketoを買収し事業領域を拡大させてきた。クロスチャンネルマーケティング、eコマース、分析ツール、広告支援、キャンペーン管理など幅広いサービスを手掛ける。

コロナ問題以降、企業が広告費やマーケティング費を削減した影響を受けているが、特にアドビの主力事業である広告支援のAdvertising Cloudの落ち込みが大きい。2Qにデジタルエクスペリエンス事業の成長率が5%に留まった後、シャンタヌ・ナラヤンCEOはAdvertising Cloudの落ち込みがなければ+5%ではなく+18%だったと語った。

もちろん落ち込みが一時的な要素と片付けることもできるが、そうしないのは同業他社よりも明らかに状況が悪いからだ。事実上市場を独占するデジタルメディア部門とは異なり、デジタルエクスペリエンス部門は最大手のセールスフォース・ドットコム、ドイツのSAP、老舗オラクルなどと競合しており劣勢だ。セグメントの区分けや決算期が異なるため単純な比較はできないが、アドビの成長率はセールスフォースはもちろんオラクルやSAPよりもかなり低い。

まとめ

収益の7割以上を占めるデジタルメディア事業が堅調な限り、同社に対する長期的な評価を変えるつもりはない。しかしデジタルエクスペリエンス事業の鈍化によって当面は忍耐が求められることになるだろう。