OTAのビジネスモデルは崩壊へ向かうのか?

Online Travel Agent(インターネット旅行代理店)やメタサーチのビジネスモデルは岐路に差し掛かっている。

先週の木曜日、OTA世界2位のエクスペディアの株価は27%下落し、一夜にして時価総額54億ドルを吹き飛ばした。またメタサーチのトリップアドバイザーは22%下落、OTA最大手のブッキングホールディングスも追随して8%以上下げた。この3社が1日に失った時価総額の合計はなんと135億ドルにものぼる。


エクスペディアもトリップアドバイザーも前日に冴えない決算を発表して投資家を失望させたが、事の真意が分かると下げ幅は4倍以上に拡大した。

その真意とはGoogleの旅行ビジネス参入の影響だ。同社はホテル予約や民泊、フライトなどのチャネルを拡充しており、これは以前から大きな脅威となっていたわけではあるが、エクスペディアはその勢いがこれまでにない程に拡大していると言う。極めつけはGoogleが検索エンジンに手を加え、ライバルたちの表示の順位を明らかに不当に扱いようになったとのことだ。エクスペディアの会長であるBarry Dillerは昨年、Googleが直接的に旅行事業に乗り出すことは平等な競争条件を満たさないと主張していたが、それが現実化しつつある。

そもそもOTAというビジネスがGoogleに命運を握られていることは明白であったが、正直どこまで踏み込んでくるのかは未知数であった。理由は大手OTAやメタサーチは気前よく広告費を支払うGoogleのお得意様であったこと。またGoogleの参入は明らかに独占禁止法に抵触する可能性が高いからだ。それらの背景もあり忖度が働いているものかと考えていた。

しかしGoogleが力を強めてくる理由も分かる。ホテルやフライト検索において、検索エンジンを利用するユーザーは減少し、メタサーチが幅を利かせるようになっている。またライバルのAmazonはインドの現地企業と提携してフライト予約に参入し、虎視眈々と旅行業界へ参入の構えを見せている。(2015年に一旦撤退したが、再び参入。)

Googleほど旅行ビジネスにおいて優位性のある会社はないだろう。検索エンジンはもちろんのこと、グーグルマップは強力な製品であり、しかも世界中のほとんどのスマホに搭載されている。最近、食べログの勢いは完全にGoogleに殺されていると思われるが、「世界中の情報を整理し、世界中の人々がアクセスして使えるようにする。」という野望へ邁進し続ければ、競争相手が付け入るスキはない。

大手OTAはロビー活動を通してGoogleへの制限を訴えるだろうが、長期的には厳しいシナリオを想定しておいた方がいい。Googleが見据える将来は、OTAとの価格競争ではなく、ビジネスモデルを根底から覆す「ホテル直販」をスタンダートにするものだ。つまりはこれまでOTAへ支払っていた費用を、広告費として置き換えようとしている可能性がある。

じゃらんも楽天トラベルも同じだが、OTAへの10%にものぼる手数料はホテル側には大きな負担だ。これらのマーケティング費用は最終的に消費者が負うものであり、この中抜きビジネスを消し去ることに大義はある。仮にホテル側が従来のOTA手数料を広告費に置き換えた場合にどれほど効果があるか分からないが、自社でコスト管理ができるメリットは大きい。それに現在もホテル側はOTAを通して間接的にGoogleへ広告費を払っているようなものであるから、コストは明らかに低下すると考えられる。

その前提に基づくと、OTAは長期的には自社の存在意義を失う可能性がある。また当面の課題としては、Googleが検索エンジンにおいて自らの優位性を高めるのであれば、それに抗うためにより高い広告費を払うことを強いられるという皮肉が待ち受けている。

このOTAビジネスの弱みは実はオンラインショッピングモールでも言えると思っていて、もしGoogleのショッピング機能が拡大し、企業が直販できる体制が構築されれば社会的な意義は大きい。楽天にしろ出店企業から莫大な場代を要求しているが、そんな楽なビジネスはいつまでも続かないと思う。私はいずれECもホテル予約も自社の直販が増えていくのではないかと考えており、例えばサイト運営支援のショッピファイやWixに注目している所以でもある。それとInstagramやFacebookの広告ビジネスに注目する理由でもある。

UNWTO(国連世界観光機関)データ 2019

UNWTO(国連世界観光機関)によると2018年の世界の旅行者数は前年比+6%の14億人となり、今後も順調に拡大することは確実だ。OTAの苦難は免れないだろうが、オンライン旅行ビジネスの規模自体はますます大きくなっていく。

OTAの中でもブッキングホールディングスの存在感は抜群だ。もう10年近く、かつてのプライスライン時代から注目しているが、常にライバルのエクスペディアの一歩先を行き、抜け目なく重要な分野を支配している。成長が著しいアジア圏をカバーするためのアゴダの買収、付加価値を高めるためのレストラン予約やレンタカー事業、民泊拡大はその一例だ。

最近では東南アジア最大の配車サービスであるGrabへの出資を通して、旅行者の現地におけるアクセス機能を提供している。テクノロジーを生かして言語の障害を省き、決済機能まで付与することで利便性は大きく向上。また最大のマーケットになりつつある中国には早期から高い関心を寄せており、例えば中国のトリップドットコム・グループ(Ctrip)への出資、最近では中国の滴滴出行、美団点評への出資は確実に将来を見据えた戦略だ。


新興国の伸び盛りの企業にとって、現地を荒らす欧米企業は厄介な存在だが、ブッキングのように欧米人を中心とした莫大な顧客基盤を有し、それを運んでくれるを企業は魅力的であり、提携関係も良好に進むと考えられる。

これらを全て踏まえ、ビジネスモデルにおけるリスクとリターンを天秤にかけて、出した投資判断はブッキングホールディングスのみニュートラルで他は厳しいというものだ。中国のトリップドットコム・グループも一時期は独占していたが、最近はライバルも台頭してきており、不透明だ。ただGoogleの進出で特にメタサーチは劣勢におかれる可能性が高い。ブッキングホールディングスならカヤック、エクスペディアならトリバゴを抱えているが、それらの事業はどう対処していくかは考える必要があるだろう。