IPO市場は回復

IPO市場は上場ラッシュ

新型コロナの影響で閑散としていたIPO市場に活気が戻りつつある。米国では6月に入りワーナー・ミュージック、ズーム・インフォなどの時価総額が100億ドルを超える大型案件が連日上場し、本日もシフトフォー・ペイメント、中国のDada Nexusなど複数社が上場する見込みである。十分な量の流動性を受けて株式市場には楽観ムードが漂うが、IPOへの需要も大幅に高まっている。



・9年振りの再上場となるワーナー・ミュージックは売り出し株数を当初の7,000万株から7,700万株へ拡大。
・バイオ企業のプライアント・セラピューティクスは売り出し株数を600万株から1.5倍の900万株へ拡大。
・ズーム・インフォの公募価格は19〜20ドルの仮条件を超える21ドルとなったが、初日の価格は62%高の34ドルで引けた。



ズーム・インフォの第1Q売上高は前年同期比+42%の1.36億ドルと確かに注目に値するが、高成長企業への関心の高さを示すようにかなりの割高な水準だ。本日上場予定の決済関連企業シフトフォー・ペイメントの第1Q売上高は前年同期比+29%の1.99億ドルだが、公募価格は19ドル〜21ドルのレンジを大きく超える23ドルで決まった。



さらにこれだけ米中関係が悪化し、ラッキンコーヒーの問題を受けて中国企業に対する目が厳しくなる中、上海を拠点とするデリバリー企業のDada Nexusは米国市場へ上場する。ウォルマートが出資する案件とは言え、いかに米国のマーケット状況が楽観へと激変しているかが分かるだろう。ついこないだ、5月中旬にはJDドットコム(京東商城)、ネットイース(網易)が米国市場からの締め出しを覚悟し、香港市場への上場申請を済ませたばかりだ。




日本も6月24日の3社上場を機にIPO市場が再開するが、今後は日米ともに空前の上場ラッシュが続くだろう。厳しい時期でも資金調達を成功させたAirbnbなどの大手は余裕があるだろうが、資金を欲する新興企業はコロナの第二波が来る前に資金調達を済ませたいはずだ。既に本日から来週にかけてオンライン自動車ディーラーのVroomや香港市場に上場するGenscript Biotechの子会社であるLegend Biotech、スウェーデン市場に上場するバイオ企業Calliditasなどの上場が決定しており、6月後半から7月はさらに増えるだろう。



米中問題はことを複雑化する


米国市場では4月以降の閑散期にも何社か上場していて、その中でも私は5月に上場した中国企業Kingsoft Cloud Holdings(KC)に一際注目していた。日本名では「キングソフトクラウド」と言い、あまりにダサい名前に一瞬躊躇するが、中国のクラウド市場の3番手につける優良企業である。


同社はシャオミの共同創業者が設立した企業でクラウドではアリババ、テンセントに次ぐシェアを持ち、シャオミ、TikTokで有名なバイトダンスなどを顧客に持つ。だからこそ市場の閑散期に、しかもラッキンコーヒー事件後に上場した初の案件で5億ドル以上を調達できたのだ。



なのに評価が驚くほど低い。確かに中国企業のガバナンス体制はかなり不安なものがあるし、現在の状況下から当然中国ディスカウントを考慮せざるえないと思うが。



2019年の売上高成長率は+80%で、2017年から2019年の3年間で売上高は3.5倍。この勢いはまだまだ序章にも関わらず時価総額はたったの40億ドルを超える程度で、2020年度の予想売上高の5倍にも満たない。人気ハイテク企業のPSRが平気で30〜40倍を超える状況を考えればかなり割安だし、本日冒頭に上げた米国のIPO企業と比べればはるかに妙味がある。だけど中国企業というだけで別のゲーム。



中国のクラウド市場のシェアはアリババが50%、テンセントが20%、キングが5%程度だが、間違いなく成長する市場だ。Kingsoft Cloud Holdingsが米国証券取引委員会へ提出した資料によると2019年〜2024年までの5年間に中国のクラウド市場は3倍になると言うがこれは正しいだろう。中国は大手2社が力を持ち過ぎており競争は厳しいものになるだろうが、成長性の高いクラウドに特化した企業という魅力は大きい。本来中国企業への規制強化や米中問題がなければ向こう3年間は鉄板案件だと思われるのだが。