中国のクラウド市場は2019年から2024年にかけて3倍以上に拡大する見込み
調査会社Canalysによると中国のクラウドインフラストラクチャ市場は、2019年第4Qに66.9%増加して33億ドルに成長したとのことだ。中国は米国に続く第2位のマーケットであり世界全体の10.8%を占める。米国調査会社Frost & Sullivanによると米国企業のIT支出のうち、クラウド関連は15.8%を占めたが、中国企業においては未だ6%に留まっておりその割合は2024年に現在の米国と同じ水準である15%以上に達するとの予想をしている。
今後数年にわたり中国のクラウド市場が高い成長を遂げることは確実だ。ただし少数の巨大企業がありとあらゆる分野を支配する異様な構図はクラウド市場においても同様であり、魅力的な投資機会は少ない。IaaS、PaaSにおいてもアリババ、テンセントが高いシェアを持ち、それに続くのがバイドゥや米アマゾン。BATは確かに有望な投資先であることには変わりないが、複数の事業を持ち過ぎており、クラウドの成長のみに賭けたい投資家のニーズは満たさない。
Canalysの「China cloud services market Q4 2019」より引用
少数だがクラウドに特化した中国企業への投資アクセスはある。今年5月に米国へ上場したKingsoft Cloudと1月に中国版NASDAQとも呼ばれる「科創板」に上場したU Cloudの2社だ。
特にKingsoft Cloud(KC)は米中関係がこじれ、ラッキンコーヒーの問題を受けて中国企業が厳しい目にさらされる中、5月のコロナ問題の真っ只中に米国へ上場するという離れ業を成し遂げた企業だ。それだけでも米国における中国のクラウド市場に対する関心の高さがよく分かる。ガバナンスが低い中国企業への投資、アリババ・テンセントなどの巨大企業への挑戦を含めて極めてリスキーな案件ではあるのだが、中国のクラウド企業への投資機会を求める投資家にとっては貴重な案件となっている。
香港に上場したU Cloudに関しては情報があまりに少ないのだが、米国に上場したKingsoft CloudについてはSEC Form S-1(米国証券取引所に上場する際の届出書)があるためその内容の一部を紹介したい。ただ個人的には中国のクラウド市場には高い関心を持っておりKingsoft Cloudにも非常に注目していたのだが、残念ながら投資案件としてはボツとなった。
Kingsoft Cloud
・2019年の売上高は前年比+78%の5億6,300万ドル。(2018年度+79%。)ただし損失額は1億6,700万ドル。
・2020年第1Q決算の売上高は1.96億ドルで前年同期比+64.5%。2020年通年のコンセンサスは+63%の9.2億ドル。
・Kingsoft Cloudのシェアは2014年の1.7%から5.4%に拡大。
赤字企業でPERは使えないが、2020年の予想PSR(株価売上高倍率)は5.8倍とかなり妥当。2021年予想では3.7倍。(ZOOM38倍、Shopify48倍、Beyond Meat21倍)
U CloudのCEOはスタートアップのクラウド企業が生き残る術として「中立性を堅持し、顧客の事業領域に立ち入らないこと」が強みになると強調しているがこれは事実だろう。米国でも小売企業はAWSを敬遠しているが、アリババ、テンセントのライバル企業であるバイトダンスはキングクラウドを選択した。しかし中国の2強はあまり強大過ぎて、多くの有望な企業にはいずれかの資本が入っており、まともにやれば勝ち目はない。中国のネットフリックスと言われるiQIYI(愛奇芸)も同社の主要な顧客であるのだが、最近になってテンセントの買収提案が明らかになり、もし成功すれば大きな顧客を逃すことになるだろう。
またキングソフトクラウドの売上高の半分以上はグループ企業からのものだ。Xiaomi、Kingsoft、Cheetah Mobileの3社が占める割合は2017年は56%、2018年は60%、2019年に57%を占めているが、Kingsoft Cloudは親会社のKingsoftからのスピンオフによって誕生した企業であり、創業者がXiaomiの創業者であることが大きく影響している。こうなるとKingsoft Cloudの本当の実力は見えにくい。
さらにクラウド事業はもともと先行投資がかさむが、競争力を高めるためにはスケールメリットを活かす必要があり投資金額が莫大になる。昨年度の赤字は5.6億ドルの売上高に対して1.7億ドルとあまりに莫大で、これまでも調達した10億ドル以上の資金は湯水の如く消えてきた。ライバルである巨大IT企業はクラウド事業のシェアを取るためにいくらでも赤字にできるが、同社には限界がある。中国のクラウド事業は数年以内に大手が飲み込む形でプレイヤーは限定されていくだろう。現在の強気相場においては中国企業に対するリスク感も薄れており、同社株の上昇余地はかなり大きだろう。しかし長期保有を前提にした場合にはやはり競争環境やチャイナリスクに見合うものではないというのが私の判断だ。