セクターにおける考察

バロンズによるとS&P500におけるエネルギーセクターのウェイトは40年ぶりに5%を下回ったとのこと。


以下は2019年8月16日終了時点のセクター別のウェイト。(S&Pのサイトより筆者作成。)

S&P500 Sector Weights    2019/8/16

S&P500の構成企業
「Information Technology」=「情報技術」68社、「Health Care」=「ヘルスケア」23社、「Financials」=「金融」62社、「Communication Services」=「コミュニーケーションサービス」61社、「Consumer Discretionary」=「一般消費財」33社、「Industrials」=「資本財」28社、「Consumer Staples」=「生活必需品」68社、「Energy」=「資源」69社、「Utilities」=「公益」28社、「Real Estate」=「不動産」32社、「Materials」=「素材」28社
※Discovery、Fox、Alphabet、News Corp、Under Armourについては複数のClass株式が含まれるが1つでカウントしている。


2019年8月16日時点でエネルギーセクターのウェイトはわずか4.45%まで低迷!


バロンズは不人気セクターであるエネルギー株は今が買い時と予想している。
理由は、1.「バリュエーションが長期平均を下回っていること。」、2.「設備投資抑制によりキャッシュフローが増加し、株主還元拡大が予想されること。」を挙げている。



また石油需要は過去数十年間に渡って安定的に増加しており、短期的な後退の可能性は低く、リセッション時にも安定していると挙げている。



遡ること2017年の6月の記事でもバロンズはエネルギーセクター反転の予想していた。2017年6月と言えばエネルギーセクターがボロボロで、当時のS&P500に占めるウェイトが2011年比で約半分にまで縮小した時だ。設備投資抑制によるキャッシュフローの改善が見込まれることも含めて、論理は今回と同じ。記事の時点で、エネルギーセクターの年間パフォーマンスがS&P500よりも21%劣後していたことからも割安感を指摘しており、シェブロン、EOGリソーシズ、カナディアン・ナチュラル・リソーシズ、ノーブルエナジーが推奨株だった。


その後のパフォーマンスはどれも論外なのだが、バロンズの予想は一部だけ正しかった。それは推奨した直後の2017年後半から2018年頃までの間に限れば、確かにエネルギーセクターは反転し高パフォーマンスを上げたことだ。ただし非常に短命な予想で、現在にまで至るとなるとどの銘柄も悲惨極まりない実情だ。


エネルギーセクターの過去10年のパフォーマンスは全セクター中最下位で、年率リターンにおいてはS&P500と9%以上も差があるが、これが結論だ。産業には流行り廃りがあり、縮小する業種に賭けるのは確率の悪いゲームだ。


目先の割安感から一時的なリバウンドを予想できても、それは長期投資においてはほとんど役に立たないどころか悪手になるケースも多い。例えば移動平均からの乖離が大きくなると一旦戻す可能性が高いということには同意するが、大きな流れを考える者にとってそれは「誤差」でしかなく、大した収益機会ではない。


唯一、今後景気後退局面が訪れた場合、エネルギーなどの不人気セクターがITなどの割高なセクターをアウトパフォームする可能性はかなり高いのだが、再度上昇に転じる局面では大きく見劣りするだろう。長期投資では下火のセクターや企業は一時的な要因で手を出すべきでない。


伸びるセクターとは?


最初に断っておくと不人気セクターにも魅力的な企業は存在するし、投資先を決定する際には企業の個性を捉えたボトムアップが王道だ。ただ本日は業種から将来性を図るトップダウン的なアプローチに焦点を当てており、その面から考察を実施する。


また2018年後半にGICS(世界産業分類基準)の変更が行われたため、S&P500やMSCIにおける企業の産業区分が大きく変更されている。そのため冒頭に上げた直近のウェイトと過去のデータはもはや比較できない。傾向を見るためにとりあえず1990年から2016年のトレンドの変化について検証した。



1990〜2016年におけるセクター別ウェイトの変化




以下サイトより引用


リーマン・ショック後の10年で見れば、ITとヘルスケアの上昇が目立つ一方で資源と金融の下落が目立つ。


ITのウェイト変化(1990〜2018年)


ITに関しては直近10年以上コンスタントに上昇している唯一のセクターであり、この傾向は当面続くであろうと予想する。昨年は一時26%を超える場面もあり、ダントツで最大のウェイトを占めていた。


ただしITバブル真っ只中の1999〜2000年前後におけるウェイトが35%程度まで上昇しているように、ウェイトの拡大は成長性だけでなく、割高なバリュエーションが含まれることにも注意が必要だ。またウェイトは業種間の強弱、相対関係であるため、減少している業種が必ずしも衰退しているわけではない事については十分ご理解いただきたい。

GICS(世界産業分類基準)の変更について

2018年に通信セクターである「Telecoms」が廃止となり、「Communication Services」が新設された。

「Communication Services」上位5企業(ウェイト)
1.アルファベット(Class CおよびAを含む)2.99%
2.フェイスブック  1.85%
3.AT&T  1.06%
4.ウォルト・ディズニー  0.98%
5.ベライゾン・コミュニケーションズ0.98%
(2019年8月16日終了時点)


新設された「Communication Services」へ移った企業
「Telecoms」AT&T、ベライゾン・コミュニケーションズ
「Information Technology」アルファベット、フェイスブック、ツイッター、エレクトリックアーツ、アクティビジョン・ブリザードなど。
Consumer Discretionary」ウォルト・ディズニー、ネットフリックス、コムキャストなど。

影響を受けたセクターはITと一般消費材が大きい。

金融セクターの評価

上記期間で最もウェイトが減少しているのは金融だ。そもそもリーマン・ショック前までは20%を超える最大のセクターであったのが、長引く低金利や規制の影響もあり近年は低迷している。


金融は大手銀行やバークシャー・ハサウェイが高いウェイトを占めている一方で、指数に含まれていない小規模な新興企業も多く、例えば直近1年のIPO企業の業種を見ると、ヘルスケア、ITに次いで金融が多い。これらも含めて全てを一括りに評価するのは好まないが、それでも大手銀行が高いウェイトを占めている限り、金融の比率はさらに下がっていくと思う。


時価総額ランキングにおいても銀行株や資源株は消えつつある。

2015年3月31日時点 米国時価総額ランキング
1.アップル
2.エクソンモービル
3.バークシャー・ハサウェイ
4.アルファベット(グーグル)
5.マイクロソフト
6.ウェルズ・ファーゴ
7.ジョンソン・エンド・ジョンソン
8.ウォルマート
9.ゼネラル・エレクトリック
10.JPモルガン・チェース

2019年8月16日時点 米国時価総額ランキング
1.マイクロソフト
2.アップル
3.アマゾン
4.グアルファベット(グーグル)
5.フェイスブック
6.バークシャー・ハサウェイ
7.ビザ
8.ジョンソン・エンド・ジョンソン
9.JPモルガン・チェース
10.ウォルマート


経済が成熟し、かつ低金利が続く先進国では金融の成長率は限られてると思うし、少なくとも長期間に渡ってインデックスを上回るのは至難の業だろう。そのため未だに金融が最大のウェイトを占めている欧州は今後最も魅力が少ないと考えている。


金融が魅力的なのは、成長率が高い新興国だと思う。実際MSCI新興国では金融が25%近く占めており最大のセクターだ。

MSCI Emerging Markets Index  2019/7/31













ただ中国に関してはコミュニーケーションサービス、一般消費財の順にウェイトが高く、金融は3番手だ。これはそれぞれの最大ウェイトを占めているテンセントとアリババの影響であり、この2社はそれぞれMSCI中国の約15%近くを持ち、合計で3割を占めていることはやはり異様な構造だろう。ちなみにS&P500の上位マイクロソフト、アップル、アマゾン、アルファベット、フェイスブックの5社が占める割合は全体の16%程度だ。


金融株の話に戻すと、バフェット率いるバークシャー・ハサウェイは足元も金融株の比率を高めている。先月もバンク・オブ・アメリカ株を買い増しているが、保有するポートフォリオ上位10銘柄のうち4銘柄が銀行株だ。


2019年6月末時点 バークシャー・ハサウェイのポートフォリオ
1.アップル
2.バンク・オブ・アメリカ
3.コカ・コーラ
4.アメリカン・エキスプレス
5.ウェルズ・ファーゴ
6.クラフト・ハインツ
7.U.S.バンコープ
8.JPモルガン・チェース
9.ムーディーズ
10.デルタ航空


アメックスやムーディーズを含めた銀行・保険、格付会社、決済などの金融関連株の保有額は1,000億ドルを超え、バークシャーの時価総額の約20%を占める。ウォール・ストリート・ジャーナルによるとその比率は2010年の12%から上昇しているとのこと。


バフェットの投資哲学からすれば安易に割高なIT株を買うわけがないし、さらに規模が大き過ぎて投資先が限られることからも、割安感が強く時価総額が大きい銀行株へ行くのは合理的な選択で、相変わらずブレがない。


面白みがなく、グロース優位なマーケット環境ではインデックスの後塵を拝しているが、弱気相場や下落局面では強いポートフォリオだろう。しかし個人があえて真似する必要もないし、長期間では魅力が薄いことからもそれならばインデックスを買っておけば事が足りる気がするが。インデックスに対する優位性が失われつつあることはバフェットも認めている。

グロースかバリューか


「割高な成長株を持つより、割安な高配当株を保有した方が長期的なリターンは高い。」投資本ではよく見る内容で、スタンダートオイルとIBMとの比較はあまりに有名だ。

過去、1950〜2003年までにおいて成長率が高いIBM(配当2.18%)よりも高配当のスタンダートオイル(配当5.19%)のパフォーマンスが高かったというものだ。


これは確かに正しい理論であるのだが、ただし1つ注意が必要なのは、当時のスタンダートオイルのEPS成長率は7%を優に超えており。単に配当が高いだけではなく、それなりの成長を示していた。現在の市場でディスカウントされている高配当株は成長率が極めて低く、それどころか将来マイナスリターンになる可能性すらある。今の時代、安定というものは失われつつあるし、配当は高くても長期間持続できる保証はない。


その一方、テクノロジーの進化もあり成長株のスピードは年々加速している。アマゾンやGoogleを代表にインターネット企業は10年そこそこでその価値が10倍以上になるものもある。
アルファベット売上高推移

アマゾン売上高推移

グロースかバリュー、いずれが有利かというのは永遠のテーマだ。しかし長期間で見た時にはいくら割安で高配当であっても、潜在的な成長率が低い限りリターンは期待できないと思う。その意味でセクターの成長性や将来性をスクリーニングし、その中から企業を選別することで少しでも確率を上げる工夫はできると思う。


また今後さらなるマーケット調整に入れば引き続きハイテク(IT関連)は一番下げると思うが、成長率の観点から長期投資のポートであれば50%以上は組み込みたいと思う。これまではインデックスをアウトパフォームするかどうかはハイテク比率が高いかどうかであったがその傾向は調整を挟んだとしても当面続くと予想するからだ。