Beyond Meat

ビヨンド・ミートの株価は6倍 


2019年の米IPO市場は、過去に例がないほどに注目企業の上場ラッシュで湧いている。その中でも主役は、前評判の高かったウーバーやピンタレスト、ズームビデオやスラックでもなく、今のところ突出したリターンを誇るビヨンド・ミートだ。
しかし株価は既に公募価格の25ドルから6倍近く上昇しており、その根拠なき熱狂は長くは続かない可能性が高い。私は1年も経ただずに株価は3分の1程度まで下落すると予想する。




これは簡単な問題だ。株価の割高さはもはや説明がつかないレベルであり、むしろなぜこのようなチキンレースが行われているかに疑問が残る。一部空売り筋の買い戻しとの観測もあるが、新興市場がカジノと化しているのであれば米市場は健全な状況とは言えないだろう。大手ハイテクへの懸念からIPO市場に資金が流入している可能性はあるが、それにしても度を越している。




JPモルガン・チェースや英バークレイズは10年ほどで植物性代替肉の市場規模が1,000億ドル規模に育つと予想しており、それに対しては反論は一切ない。ただ昨年も同様にTilrayという医療用大麻の企業が、その潜在的マーケットの大きさから強烈な上昇を演じたが、無残な行く末を辿りつつある。




バリエーションは明らかに割高


赤字の成長企業を図る指標はいくつかあるが、例えばPSR「株価売上高倍率」を使うと、(時価総額=約90億ドル)÷(年間の予想売上高=約2億ドル)で45倍となる。

つまり時価総額が年間売上高の45倍ということになるのだ。利益の倍率であるPERでも45倍となるとそれなりに高いが、使っている分母は売上高でこれは成長率を加味しても明らかに高いだろう。PSRについては、個人的に利益率の高いインターネット企業やソフトウェア企業でも25倍を超えると相当割高という印象だ。




例えばクアルコムのライセンスビジネスのように、代替肉市場における強力な特許を持っていてそれを既存の食品メーカーに付与するような利益率の高いビジネスモデルならまだしも、ビヨンド・ミートは単に製造して販売する一食品メーカーと何ら変わりない。バリエーションの判断はより厳しくする必要がある。 米食肉市場の2割を支配する最大手タイソン・フーズの時価総額は、ビヨンド・ミートのたった3倍しかないが、売上高は200倍以上ある。


競争環境 


そのタイソンはビヨンド・ミートへ出資していたが、上場前に売却している。現在に至るまで保有していればかなりのキャピタルゲインを得ることができたのだが、そんなことよりもタイソンはこの代替肉のパイオニアとの協力・共存を選択せず、自社開発へと舵を取ったことが重要だ。タイソンは間もなくオリジナルブランドの植物性代替肉のナゲットを発売する。米市場の最大のライバルであるインポッシブル・フーズも、かつてはレストラン向けが主であったが、ビヨンドの主であるスーパー向けを強化しており、今後真っ向からぶつかることになる。




またビヨンド・ミートは米国だけではなく、欧州向けへの投資を加速させているが、そこには巨大企業ネスレ(スイス)が待ち受ける。ネスレは既に欧州市場向けに植物性代替肉「Incredible Burger」を投入し始め、ユニリーバも同様に「Vegetarian Butcher」を立ち上げており、近いうちに参入してくる。新興国を見ても南米ではブラジルのJBSも同様に代替肉への参入を発表するなど、ライバルの動きは想像以上に早い。





今のところ供給が大きく不足しており、当面の間は生産能力拡大が業績を押し上げるだろう。ただし一番気になるのは、ビヨンド・ミートやインポッシブル・フーズが切り開いた新たな市場も、大手食品メーカーにとってはさほど参入障壁が高くない可能性が高い。健康志向の高まりから既存の食品メーカーも代替肉への研究や投資を続けており、参入してくる企業は今後も増え続けるだろう。



次世代の食産業は「培養」が最も有望。   


つい先日、日経新聞にウナギの養殖の困難さについての記事があったが、そもそも食べるためだけの食材にウナギの命は必要なのか?


これは培養技術の本質を問うものだ。


「ウナギの命を人工的に育てる。」という難しい工程を省き、既存のウナギの細胞を培養して「食べるための肉を作り出す。」プロセスの方が、より合理的である可能性は十分ある。



また食肉を得るために、家畜を育てることで甚大な環境汚染を引き起こしていることも無視できない。飼育の過程では大量のメタンが排出され、その有害性は二酸化炭素をはるかに上回る。それに畜産のために森林が伐採され、大量の水や穀物を消費する。


Cowspiracy: The Sustainability Secret | Netflix

ネットフリックスで2014年から配信されているドキュメンタリーであるが、地球温暖化の原因は、化石燃料の消費よりも畜産業によるものがはるかに大きいと指摘している。全てを信用するわけではないが、その他にもかなりショッキングな内容が描かれている。国連機関の発表でも温室効果ガスの原因の15%程度が畜産業によると公表されており、その有害性が極めて高いことは間違いない。



コラム:培養される「クリーンミート」は地球を救うか
ロイターの記事によるとオックスフォード大学の研究者ハンナ・トゥオミスト氏が2011年に発表した研究によると、培養肉(クリーンミート)の生産では、通常の生産とくらべて土地を99%、水は96%、温室効果ガスを96%削減することが可能との試算している。
世界の人口は現在75億人から2050年には98億人に増加すると見込まれているが、現在の畜産業を続ければ環境への負担は計り知れない。



台頭する培養企業


米メンフィス・ミートは動物の細胞からミートボールやチキンを作り出すことに成功し、2021年には市場へ投入する予定だ。肉の元となる動物を復元するのではなく、あくまで食肉を無菌環境で培養する。


同じく米フィレンス・フーズはクロマグロの細胞を培養し、すり身やペースト状のネギトロの開発に成功した。マグロの大トロが高いのはその希少さ故であるが、今後日本人が大好きな大トロだけ培養することも可能になるかもしれない。




農業でも革新的な企業が続々と存在感を増している。米エアロファームは養分を敷いた水にLEDライトを当てて野菜を栽培し、除草剤や殺虫剤不要な安全な野菜を作っている。ソフトバンクのビジョン・ファンドやアマゾンのジェフ・ベゾス氏、アルファベットのエリック・シュミットらが出資する米プレンティは同様のインドア式農業を手掛け、主に都市で生産することで消費者への短時間の供給を可能としようとしている。パワリーファーミングも同様のビジネスを手掛ける。




いずれも従来の農業に比べて、大規模な農場スペース、大量の水は不要で、かつ農薬の必要がない利点があり、今後AIやロボット化による大量生産が見込まれている。また生産後の問題として食品における保存料は、多くの人々が嫌煙する大きな理由となっているが、米アピールサイエンスは薬品ではなく果物成分を使って劣化を抑える液体の開発に成功した。同社製品である「エティピール」を吹きかけると、脂質の分解や酸化を防ぎ、腐敗のスピードを緩める効果がある。





「ラボで培養した肉や野菜を食べる気にはなれない。」という意見はよく耳にするが、既存の農業や畜産は、より早く・より大きく育つようにあらゆる手が加えられている。モンサントの除草薬は未だに訴訟を抱えているし、遺伝子組み換え作物は多くの人に嫌煙され、米国の食肉用の家畜には大量の物質が投与されている。ウォール・ストリート・ジャーナルによると鶏の成長するペースは50年前に比べて2倍速まったとのことだ。





バイオテクノロジーは医薬品や食品生産の面で、今世紀最大の成長市場になる可能性がある。健康への追求は日増しに高まり、爆発的に増える人口を抱えながら持続可能な社会を実現するためには環境問題は避けられない。代替肉をはじめ培養技術は未来の食料問題を解決する糸口になるかもしれないが、投資先として選定には厳しい目を持たざる得ない。今のところ参入障壁やビジネスモデルの優位性を持つ企業は限られ、リスクの高さから手が出ないというところが本音だ。