動画配信ビジネス
NetflixやHulu、Amazonプライムビデオなどの動画配信サービスは、今や当たり前のように利用されているが、やはり革新的なビジネスモデルの1つと評価するべきであろう。
従来のレンタルサービスの手間を省き、価格も安く、デバイスの制限も取り払った。利便性を追求する現代において、今思えばネットフリックスが受け入れられたことは当然であったかもしれない。
それでも同社が過去4年間で売上高を3倍に拡大し、株価が4倍になると想像できた人は少数であろう。莫大なコンテンツ投資をはじめ同社の経営戦略は、常に危険と隣り合わせで批判の的にもなっていたが、今思えば極めて理にかなった戦略であったと思う。
しかし負債の大きさ、利益率の低さなど問題は数知れず、未だに多くのアナリストや著名投資家は散々こき下ろしている。私自身もお恥ずかしいことに完全に過小評価していた。今の株価は割高で、現在から投資する魅力は感じていないが、見方を大きく改める必要があるとは感じている。
ネットフリックスのビジネスモデル
動画配信のビジネスモデルにおいて、マネタイズの方法は2つある。1つはネットフリックスのようにサブスクリプション型の利用料を取るもの。もう1つはYouTubeのように広告で収益を得る方法だ。Huluや日本のAbemaTVなどその両方を取る選択肢もある。
インターネットビジネスにおいて入り口で利用料を取ることは非常に難しい。それがネットフリックスを過小評価した最大の原因だ。
特にAmazonがプライムビデオへの投資を強化したことで動画配信のサブスクリプションモデルは弱体化すると考えた。強力な本業を持つGAFAはとにかくやっかいな存在だ。アマゾンのようにプライム会員誘致のために動画配信を「コスト」として扱う業者が現れれば、利用料を収益とする企業は立ち行かないと感じたからだ。
ネットビジネスにおける究極の2強はECと広告であり、私の中でこの考えは未だに変わっていないが、それを本業とする企業はコストをシェアして集客のためにあらゆるネットビジネスを展開することができる。ストレージ、メール、GPS、SNSなどはその典型だろう。
またネットフリックスはコンテンツの制作や調達のために、2018年度は120.4億ドルもの巨額費用を費やし、2019年にはそれが150億ドルまで拡大する見込みだ。そのせいで2018年度のキャッシュフローは30億ドルもの赤字となっている。一方でYouTubeは一部費用をかけたコンテンツもあるが、その大半は無料で仕入れることができる。
2つ計算違いのことがあるとすれば、それはネットフリックスが番組を調達して配信するだけのプラットフォーム会社ではなく、まさかの売れっ子コンテンツ制作会社になっていたことだ。もう1つは無料でコンテンツを得られ、ボロ儲けだったはずのYouTubeやフェイスブックは、違法コンテンツの削除に莫大な費用を費やしていることだ。さらには広告のビジネスモデルはデジタル規制の影響で多額のコストを計上する可能性が高い。
アマゾン型投資戦略
ネットフリックスはアマゾンのお株を奪うかのように、猛烈な先行投資で競合他社を引き離しにかかっている。今年の投資規模は、年間150億ドルにものぼりアップルやアマゾンがいくら潤沢なキャッシュフローを持とうが、抵抗するには躊躇する水準まで達しているはずだ。
今のところアマゾンは動画配信への投資を止めておらず、2019年1-3月期には動画・音楽含めて17億ドルをコンテンツに支出し、通年でも70億ドル規模になると予想されている。
またアップルの資金力を考えれば、新たな動画配信へ200億ドル規模の予算を持つことは理論上可能だ。しかしiPhoneの利益を株主へ還元せず、当面利益が出そうにない動画サービスへつぎ込むことは難しいだろう。
そもそもアップルの動画ビジネス参入は以前より予想されており、ディズニーやネットフリックス買収への憶測があったのが、今更自前とは無策に思える。アップルミュージック同様にデバイスの有利性を活かせばある程度のシェアは取れるだろうが、動画配信はライバルがはるかに強敵であり難しい戦いとなるだろう。サービス主体のビジネス展開が求められる今となっては、目先を捨ててどこまで踏み込んでこれるかだろうが、それは簡単な話ではない。
コンテンツ争い
向こう数年間でネットフリックスからコンテンツを引き上げる動きは加速する可能性がある。ディズニーに続いて、番組を提供していたCATV大手コムキャスト傘下のNBCユニバーサル 、AT&T傘下のワーナーメディアも動画配信への参入するからだ。
米調査会社Nielsenによると2018年10月末時点でネットフリックスの視聴された動画のうち72%がオリジナル動画以外とのことだ。視聴率上位にはディズニー、NBCユニバーサル、ワーナーメディアの作品が多く含まれている。
コンテンツ会社が独自のプラットフォームを持とうとする流れは、競争が一巡するまでは続くだろう。スポーツ同様にコンテンツの価格は上昇傾向となり、制作や調達コストは膨れ上がるだろう。
それらを考慮するとネットフリックスの財務悪化は必至であり、2020年にキャッシュフローが好転するとの見通しはかなり怪しい。2019年3月末時点の有利子負債は103億ドルにのぼり、1年前の65億ドルから大幅に増加している。今年はキャッシュフローのマイナスが昨年の30億ドルから35億ドルへ拡大すると見られているが、来年以降はさらに悪化する可能性がある。
投資妙味はあるか?
競争が激化してもネットフリックスの優位性は変わりないだろう。世の中の流れから「暇つぶしビジネス」の有望性は高く、同社は将来世界最大のメディア企業になる可能性すらある。それでも向こう数年間の不透明さから、私の考えでは投資には値しない。今後予想されるコンテンツの制作や調達コストの増加に伴う財務の悪化、既にかなり割高となっている株価の水準を考慮すれば当面は「見」が得策だろうとは思う
また上客である米国内のユーザー数は既に6,000万人を突破しており、2019年1−3月期の増加数は174万人(3%増)にとどまっていることもある。今後の成長は海外に委ねることになる。
参考までに2019年4月時点のネットフリックスの海外の利用料を紹介したい。(比較するのは最低プランの料金)
netflix international price
海外の利用料金は意外と高い。また米国の調査会社によるとコンテンツの数と利用料を比べた場合、最もお得なのは日本であるとこのことだ。
娯楽を求めるのは世界共通のことであり、長期的に世界中で高いシェアを持つことになるだろう。そのスピードは不明だが。
広告orサブスクリプション
動画配信のビジネスにおいて広告とサブスクリプションはどちらかが優れているのかは重要な問題だ。
サブスクリプションの利点は、契約者数に応じて利用料が確実に得られることだろう。またYouTubeやFacebookは広告主のご意向を伺う必要があるが、ネットフリックスは完全にユーザーの視点に立った商売ができる。表現の規制がはびこるグローバルにおいて煩わしい批判をかわす意味でも大きいと思われる。
ただ一方で広告事業の利点も大きい。従来のテレビは視聴者全員に同じ広告コンテンツを提供することしかできないが、インターネット経由で動画配信することにより、ユーザーの詳細を捉えた上で広告提供が可能だ。これは企業が一番求める要素であり費用対効果も大きい。
参考資料
コア事業が違うため厳密に比較することはできないが、2018年度における広告を主とするFacebookと、サブスクリプション型で収益を得るNetflixの1人あたりの収益額を比較したい。以下は米国のとあるサイトの資料を使わせてもらった。
The Springより引用
引用先は公式なものではないが、私自身がAnnual Report等を比較してほぼ同じ数字であったことは確認している。Facebookの2018年における米国・カナダ事業の1人あたりの売上高は約111ドル程度対して、ネットフリックス(米国のみ)は約123ドルであった。
今のところ広告、サブスクリプションにほとんど差異はないが、広告収益は右肩上がりであり、やはり私の考えでは広告事業がより優れていると思う。しかしこれはあくまで売上高の話でコストは含んでおらず、既に述べた規制を含めて厄介な問題があることは事実である。むしろ世の中の流れは逆だ。
アルファベットは2019年1−3月期決算発表においてYouTubeの減速を示唆し、加えて有料会員サービスの拡充を進めており、動画配信においては利用料を取るモデルが主流になるかもしれない。日本のAbemaTVも広告事業だけでは、コンテンツ制作費用を賄えないことが明らかになりつつある。有料テレビ放送にお金を払うのが一般的な米国に比べて、無料が当たり前の日本では、利用料の徴収ビジネスは困難な可能性はあるが。
またForbesは「ネットフリックスが「広告つき」配信に踏み切る可能性」という記事を発信しているが、今のところその可能性は低いと思う。ネットフリックスが利用料ビジネスを成功させた今、問題となっている広告事業に踏み込むのはリスクだ。ユーザー情報についても趣向以外取っていないと公言し、情報乱用の流れをうまく交わしている。