ウーバー・リフト上場へ

ロイターの報道によると今月上場予定のLyftに続き、Uberも早ければ4月に上場する予定とのことだ。


まず興味深いのは米ライドシェア大手2社の筆頭株主はいずれも日本企業である。しかも自動車会社ではなく、日本のIT企業である楽天・ソフトバンクだ。


リフトの評価額は200〜250億ドルと言われ、楽天は2015年の出資額3億ドルが30億ドルに化けると予想されている。ソフトバンクはウーバーだけでなく、中国の滴滴出行、インドネシアのグラブ、インドのオラの筆頭株主でもある。世界のライドシェアにおけるプラットフォーム企業を完全に抑えるとともに、ハード面ではトヨタとも提携し将来を見据えている。



楽天の三木谷会長の2015年のコメント

「Lyftこそが経済の将来型です。人と人とのつながりをエンパワーする(力を与える)ことで、シェアリング・エコノミーはサービス業界を根本的に変え、社会に恩恵をもたらします。個人や社会の潜在能力を引き出すLyftのようなビジネスが、将来へのカギを握っているのです」。


WSJにも出ていたが、先見の明とはこのこと。






ライドシェアはまさに時流に乗ったビジネスであると思う。それは単なる流行り物という意味ではなく、これまでできなかった車社会の理想的な時代を創り出そうとしている。



私はその核心が、「世界の自動車台数を減らす。」というところにあると考えている。



これまでの自動車社会は、販売台数を増やして利益を出す自動車メーカー主導によって作られてきた。新興国を中心とした経済成長に人口増加の背景もあり、当たり前のように世界を走る車は増え続けてきた。


その結果、資源の大量消費や環境問題、渋滞などの大きな問題を抱えてることになった。これは持続可能な社会ではない。さらに個人が持つ自家用車の稼働率は恐らく1割以下と言われ、リソースをフル活用できていない。


今後あらゆる形でのライドシェア(カーシェアリング)が台頭し、「所有」の時代は終わるだろう。その結果世の中の車の量が減れば、実はそのメリットは計り知れない。日本の狭い国土に、車を置くためのスペースがどれだけ確保されているだろうか。所有することによるランニングコストの削減、渋滞の緩和、交通事故の減少。


しかしこれまでは、それを望む業者はいなかった。




自動車産業の裾野は広い。製造・販売、メンテンナンス・修理、保険、ローンなどの金融サービスにまで至る。これまで主導権を握っていた人々はいずれも世の中の車の数が減っては困る人達であった。


だからこそ本来あるべき姿とは逆行していたのだが、ライドシェアというビジネスモデルが生まれたことで、今後その流れが大きく変わっていくことになる。自動車メーカーやその関連企業にとっては受け入れ難い事実かもしれないが、これは正しい道であり確実に進むと断言できる。








しかし自動車メーカーはいずれも時代に乗り遅れている。自動運転は確かに重要な技術だが、ライドシェアのプラットフォームを抑えることの方が100倍重要だ。今のところITプラットフォームを握られ、単なるハード作りに甘んじている電機メーカーの二の舞いになる可能性は高い。



今のビジネスモデルのままでは販売先が個人からライドシェア企業に変わり、販売台数も利益率も低下することは確実だ。せめてもの勲章はウーバー向けの販売台数がトップとかそういうレベルになる。





とは言っても日本は未だに既得権益と決別できておらず、ライドシェアは法律で禁止されている。ソフトバンクの孫社長が「国が未来の進化を止めている。」と話すのはまさにその通りだ。



しかもタクシー業界はもはや守っても守りきれるものではなく、ただの延命措置でしかないことに問題がある。将来挽回の可能性があるものに時間を与えることは許されよう。しかしそんなものはなく、遅れれば遅れるほど世界から取り残される。





さて最後にウーバーとリフトへ投資の価値があるかどうかだ。散々褒めちぎっておいてなんだが、現状のところ私は間違いなく投資しないだろう。ライドシェアやフードデリバリーは利益率が低く、競争も激しい。いずれもドライバーの確保が早急の課題で、上場の過程ではあらゆるインセンティブを付与することで取り込みを競い合っている。



先に上場するリフトの売上高推移は、2016年3.43億ドル→2017年10.5億ドル→2018年21.5億ドルと3倍、2倍と来ているが、直近の2018年度は9.4億ドルの赤字。しかも当面黒字化の目処はない。ウーバーも2018年の売上高は113億ドルにのぼるが、赤字は18億ドルであり既に向こう3年間は赤字とアナウンスされている。




今後長期で見れば有望であることは間違いないが、投資先となれば話は別だ。日経新聞によると2018年に世界で596億ドルだったライドシェアの市場規模は2024年には2.5倍の1487億ドルに拡大する見通しだ。しかしBMW・ダイムラーなどの欧州連合もライドシェアに進出する構えで、当面の間は競争環境はより厳しくなる。



さらに上場前に多額の資本を調達しており、既に肥大化しすぎていることも懸念材料である。WSJによると借り入れも含めて既にウーバーは200億ドル、リフトも51億ドルを調達しているとのこと。評価額もウーバーが昨年8月の資金調達ラウンド時の720億ドルから足元1,200億ドル相当まで膨れ上がり、リフトも昨年6月の150億ドルから200億ドル以上まで上昇している。



長引く低金利で未上場企業へ潤沢な資金が流れ続け、上場後にしか手が出せない我々個人投資家はより不利になっている。



またウーバーなどのライドシェアの将来的なビジネスモデルは、車に限らず全ての交通プラットフォームを抑えることである。これは鉄道などの公共交通も含めたものであるが、仮に成功してもそれまでに長い年月が掛かる可能性が高い。当面は事業領域拡大のためにフードデリバリーや運送業界への進出しているが、いずれも現状のところは差別化が難しいことがやや難点である。