必要以上の緩和は将来のリスクを増大させる。

システミックリスク


将来もし金融危機を起こるとすれば、「元凶」が何になるかは分からないが、それを増長させる最大のリスクは債券市場にある。長引く低金利は、信用リスクを無視して恐ろしい状況を作り出している。



先進国の国債は当たり前のようにマイナス金利となっているが、かつて大きなリスクとなった弱小国ギリシャの10年国債の利回りがたったの1.4%程度まで低下していることには違和感を覚える。これは世界で最も安全であるはずの米国債の利回りをも下回っており、やはり不安があるポルトガルやスペインといった南欧2国に至っては0.2%台である。こういった状況はレバレッジド・ローンをはじめとした企業債務においても同様のことが起こっており懸念すべき事項だ。



IMFは今月、「2021年までにデフォルトの可能性がある企業債務は19兆ドルに上る可能性がある。」という恐ろしい警告を鳴らした。さらに「緩和が続けば、債務の増加はさらに続き、将来大きな景気後退につながりかねない」と副作用にも警鐘を鳴らしている。しかし世界的な金融緩和によって債務増加の流れは止まりそうにない。    


10/22付けの日経新聞が今の異様なマーケット状況を語っている。


現在のマーケットでは「お金を借りたら利子を払う」という当たり前が通じない。借り手ではなく、貸し手が逆に利子を払う時代だ。また「資本市場は企業が資金を調達する場」という常識ももはや通用しない。資本市場は企業が自社株買いを通じ、投資家に資金を返す場に変質したのだ。  



世界の上場企業の自社株買いは昨年、株式での資金調達額を70兆円以上も上回っている。利回りを求める向こう見ずなマネーのおかげでリスクの高い企業も容易に資金調達が可能となり、米企業債務は15兆ドルを超える過去最高規模まで積み上がっている。    


金融政策の副作用   


長い目で見れば景気後退のタイミングがあることは必然だ。前向きに捉えれば、景気後退は経済における間違いを正し、新陳代謝を促すものとも言える。大規模な金融緩和は確かに景気を下支えするが、ゾンビ企業の延命、企業債務の増加などの将来の問題につながる可能性が高い。

前回のサブプライムショックは住宅ローン市場の崩壊が引き金となったが、同様のリスクになりえると指摘されているのは米国のレバレッジ・ドローンだ。バンクローンとも言われる低格付け企業が発行する債権で、CLO(証券化)されて人気商品となっている。変動金利かつ担保ありで、さらには投資家のリスクを抑制するために財務制限条項(コベナンツ)がついてるケースが多いのだが、最近は「コベナンツ・ライト」という制限が緩和されることが増え、質の低下が懸念されている。     



イエレン前FRB議長は繰り返しレバレッジド・ローンのリスクについて言及していたが、低金利下では、利回りを求めて多額の資金が流入している。個人だろうが企業だろうが信用力が低いところに大量にマネーが向かっている状況は危険であり、もし仮に金利が急上昇すればデフォルトによる信用リスクの連鎖が懸念される。   

過去10年において、リスクを敬遠し慎重になった投資家は割りを食ってきた。緩和局面では向こう見ずな投資家こそがリターンにありつけたことも事実であり、あまり不安を煽るつもりもない。しかし今起こっているリスク要因を踏まえた上で投資をすることは重要であり、今回は率直な債務の質の低下について紹介した。