HubSpot(HUBS)はCRM、営業支援、マーケティング、コンテンツ制作など、企業のデジタル戦略をサポート
企業がデジタル戦略を取り入れる理由は大きく分けて2つあるが、一つはテクノロジーの力で既存業務を効率化すること。もう一つはオンラインチャネルを通じ、新たな顧客を獲得することにある。
ハブスポットの魅力は、これらに必要な機能をオールインワンかつ低コストで提供している点にある。またCRMやマーケティングソフトウェア市場はSalesforce、Microsoft、Adobe、Oracleなどの大手がひしめく業界だが、よりニッチな小規模事業者をターゲットにしていることは大きな特徴と言えるだろう。
スタートアップなどのスモールビジネスは、大企業に比べてあらゆるリソースが不足しており、デジタル化により積極的だ。自動化、効率化のニーズは高く、さらにマーケティングに関しては、いずれオンラインに特化した戦略へ切り替えていく可能性が高い。つまり中小企業ほどデジタルスキルを必要としており、長期的に魅力的なマーケットとなる。
ハブスポットの戦略は明確で、今は顧客基盤を拡大することに重きが置かれている。それを支えるのがフリーミアム戦略であり、要となるCRMは顧客管理から営業支援、マーケティング、コンテンツ作成まで行える強力な無料ソフトだ。資金力のない中小企業には重宝されており、昨年のコロナ下には顧客数が42%拡大し、その数は10.4万社にのぼった。20年4Qの1社あたりの売上高は9,758ドル(100万円程度)。
バンク・オブ・アメリカは最近、ハブスポットが属する市場規模を870億ドルと見積り、これは同社の2020年の売上高の100倍に値する数字ではあるのだが、長期的に見ればまだまだ途上だろう。ハブスポットの場合、フリーミアム戦略で得た顧客がデジタル化のメリットを感じれば、有料サービスを多く取り入れていくだろう。その時こそが大きなマネタイズの機会となるのだが、それはもう少し先の話だ。
Hubspot売上高推移 |
決算コンセンサス
2021年度の売上高見通しについて会社側のガイダンスは11.6〜11.7億ドル、市場予想は上限の11.7億ドル(前年比+32.2%)。ただ20年4Q終了時点でARRは10億ドルを超えており、つまり既存の契約が継続すれば年間収益は既に10億ドル以上あるということになる。
また来月発表される2021年1Qの売上高コンセンサスは前年比で+32.6%の2.64億ドルとなっている。2020年の4Q比で見ると+4.7%と決して低くはないが、昨年後半のQoQ成長率が10%を超えていた事やコロナが直撃した2020年2Q以外はいずれも5%を超えている事からも、上回る可能性が高いと予想する。
QoQ成長率(2019〜2020年度)
2021/03/31 264M +4.7%(予想)
2020/12/31 252M +10.5%
2020/09/30 228M +11.8%
2020/06/30 204M +2.5%
2020/03/31 199M +7.0%
2019/12/31 186M +7.0%
2019/09/30 174M +6.8%
2019/06/30 163M +7.2%
2019/03/31 152M +5.6%
投資にあたり最大のネックはバリュエーションであり、時価総額234億ドルは今期の予想売上高の20倍、予想PERは338倍となる。ただ長期的な成長性を考慮すれば十分に投資に値する。
オープン型プラットフォーム
フリーミアム戦略に加え、オープン型のプラットフォームはもう一つの強みだ。同社のソフトウェアは他社製品との組み合わせやカスタマイズも自在であり、自社を中心としたエコシステムを形成している。
CRM、SFA(営業支援)、MA(マーケティングオートメーション)は既に複数のソフトウェアが存在するが、ハブスポットのプラットフォームはデータの相互利用をはじめ、シームレスな連携ができるように設計されている。中でもSalesforceとの統合機能は有名だが、日本のソフトウェア企業ではクラウド会計のfreeeや名刺管理のSansanとも自動で同期させることができる。
HubSpot App Partner Program |
強力なエコシステムを形成するには、ソフトウェア間のサイロを取り除くことが欠かせないが、2019年に買収したPieSyncによって異なるツール間であってもリアルタイムに自動同期させることができる。フリーミアム戦略に加え、一元管理できるプラットフォームやエコシステムは高い競争力を生んでおり、持続的に成長していくだろうと判断する理由だ。
今後のマーケティング戦略とは?
ハブスポットの創業者であるブライアン・ハリガン氏、ダーメッシュ・シャー氏はインバウンドマーケティングの提唱者。同社のソフトウェアはマーケティング機能を非常に重視している。
BtoBもBtoCも今やオンラインが主戦場だ。顧客の大半はインターネットで情報収集しており、無差別にアウトバンド型のマーケティングを行うよりも、意欲の高い顧客をオンラインで獲得する方が効率的だ。
デジタルマーケティングならば、パーソナライズされたメール配信、SNSへの投稿や広告キャンペーンなどのタスクは全て自動化できる。Webサイトの訪問者をスコアリングし、プロファイル化して顧客管理をしたり、セールス部門と連携することも可能だ。コードが分からなくてもWebやフォームの作成は容易で、あらゆるソフトウェアをつないでデータを同期できる。これらを全て一元管理でき、プロセスを可視化し、結果を詳細に分析できるとなれば大きな力となるだろう。
リソースが豊富な企業はあらゆるマーケティングを活用すれば良いが、余裕のないスモールビジネスはデジタルマーケティングに特化した戦略が最適となる可能性がある。特に人的スキルに依存した営業や管理体制は大きなリスクでもあり、それらも合わせて見直す機会となる。
日本でもデジタルマーケティング企業が次々と上場して注目が集まっているが、この分野の進歩は凄まじい。多くの企業は従来型のマーケティングに莫大な予算と人員を投入しているが、向こう数年間で低コストのデジタルマーケティングへ置き換える可能性はかなり高いと予想する。
ECサイト構築のショッピファイが、これほど成長できた理由は何であろうか?
最大の理由は、企業のEC戦略がモール出店型からDtoCへと移り変わるチャンスを逃さなったからだ。アマゾンのような巨大モールが支配し続ける背後で、着実にDtoCのマーケットは巨大化していった。
2014年に10万社だったショッピファイの顧客数は、2017年50万社、2019年には100万社を超え、昨年末には170万社にのぼる。ちなみにハブスポットの顧客数は昨年10万社を超えたばかりだ。
同じようにマーケティングの世界で中心的な役割を果たしてきたのはデジタル広告だ。GoogleとFacebookを合わせた売上高は、過去5年でおよそ3倍、過去10年では8倍以上に膨らんでいる。アマゾン同様に今後もその重要性は変わらないが、一方で企業が独自のマーケティングへ取り組んでいくことは確実だ。私はそこに大きな機会があると見ており、同社には注目している。