アマゾンの3Q(7−9月期)決算を予想してみた。

米国は3Q決算発表シーズンへ

間もなく米国は決算発表シーズンに入るが、本日は最も注目度が高いであろうアマゾンの決算について予想していきたいと思う。ちなみに前回の2Q(4−6月期)では売上高、利益ともに事前予想を大きく上回り、決算後に株価は急騰した。米商務省によると米国のeコマースは2Qに44.5%成長し、小売全体に占める割合は昨年の11%から16.1%にまで拡大したとの事だ。外出規制が解除された3Qは2Q比で若干の成長鈍化が予想されているが、それでも最近6-8月期決算を発表したベッド・バス・アンド・ビヨンドのオンライン売上高は前年比+89%、ナイキが+82%と好調だった。アマゾンの3Q決算についても引き続き高い成長が報告されるだろうと予測する。

3月以降、アマゾンは急増した需要に対応するために桁外れの規模の投資を続けている。雇用面では3月に10万人、4月に7.5万人、そして9月にも10万人の追加雇用を発表しているが、6月末時点の従業員は前年比で34%増加した。フルフィルメントセンターおよび倉庫のスペースを年内に50%拡大(昨年は+15%)すると発表し、2QにはAWSを含めて90億ドルもの投資を行った。延期されていたプライム・デーが10月13、14日に開催されることが発表されたが、これは同社の供給力が大幅に強化された証でもあるだろう。

決算コンセンサス

アマゾンの3Q決算(7-9月期)のコンセンサスを確認してみると、売上高の予想中央値は前年同期比+32.1%の924.7億ドル。EPSの予想中央値は7.25ドルで、前年実績4.23ドルに対して+71.4%といずれもかなり高い数字だ。

まず売上高から見ていきたいのだが、今年の売上高成長率は1Q(1-3月期)が+26.4%、2Q(4-6月期)は40.2%だった。過去10年の平均成長率は+27.6%(CAGR)。3Qの成長率は2Qからは若干鈍化すると予想されているが、アナリストの予想レンジは900.7~950.1億ドルで、成長率換算で示すと+28.7 〜35.8%。ちなみに会社側の予想は870~930億ドルだ。

売上高構成と見通し

2Qのアマゾンのセグメント、成長率、売上高、構成比率は以下の通り


自社EC+47.8%の459億ドル(シェア51.6 %)
マーケットプレイス+52.1%の182億ドル(シェア20.5%)
eコマース合計+49%の641億ドル(シェア72.1%)※1

実店舗販売-12.8%の38 億ドル(シェア4.2%)※2
プライム会費+28.7%の60億ドル(シェア6.8%)
AWS+29%の108億ドル(シェア12.2%)
その他(広告)+40.6%の42億ドル(シェア4.7%)※3
その他の合計+21.7%の248億ドル(シェア27.9%)

※1自社ECの売上高は販売金額ベース。マーケットプレイスは手数料ベース。
※2実店舗にはホールフーズなどのオンライン販売は含まない。
※3その他項目の大半の収益は広告事業と予想されているが、正確には公表されていない。

2Q2020決算資料より

3Qの売上高が予想を上回るかどうかについては、当然ながら7割以上を占めるeコマースの成長が鍵となる。ちなみに1Qは自社ECとマーケットプレイスの合計(eコマース)が+25.8%の511億ドルで、それ以外が+26.4%の243億ドルだった。2Q以降はeコマースの成長率が逆転し、今やプライムやAWSの成長率は全体を下回るようになった。

私の試算では売上高コンセンサス(+32.1%の924.7億ドル)を達成するためには自社EC、マーケットプレイスを合わせたeコマースの成長率が最低37%必要になると見る。これはeコマース以外の合計(実店舗・プライム・AWS・広告)の成長率を+21.1〜21.9%と予想し、それに基づいて逆算している。算出にあたっては最大のウェイトを占めるAWSの成長率を26〜28%(2Qは+29%)、実店舗の売上高を-10%(2Qは-12.8%)とし、プライムと広告については過去1年間(ttm)の平均成長率を使用した。多少のブレはあるだろうが、もともとこれらの合計は全体の3割以下しかないため、必要なeコマースの成長率にそこまで違いは出ないと考える。

eコマースの成長率と全体の売上高成長率の予想

eコマース成長率+30%→全体の成長率+27.4%
eコマース成長率+35%→全体の成長率+30.8%

ーーーーコンセンサス+32.1%(eコマース成長率+37%)ーーーー

eコマース成長率+40%→全体の成長率+34.3%
eコマース成長率+45%→全体の成長率+37.7%
eコマース成長率+50%→全体の成長率+41.2%

既に示した通り2Qのeコマース成長率は+49%で(自社EC+47.8%、マーケットプレイス+52.1%)、3Qの成長率が37%以上というのは十分に可能なレベルと予想できる。アマゾンの最大のライバルであるウォルマートのオンライン販売は2-4月期に+74%、5-7月期に+97%だった。

ただ外出規制が敷かれた2Qに比べて3Qの成長率が減少していることは間違いないだろう。ショッピファイの2Q決算発表においても4、5月に急増した需要が、6、7月に減少傾向であるとの発言もあった。ただ予想を極めて難しくしたのは、比較対象となるアマゾンの2Q+49%という数字が決して需要を完全に反映した数字ではないはずだからだ。CFOのBrian Olsavsky氏は2Q決算発表時に「スペースが足りなくなくなった。」との発言があったが、特に3、4月は必需品以外の販売やサードパーティの販売を制限したり、まとめ買い機能を停止するなどロスが発生していた可能性が高い。

さらに混乱させられたのは夏場の消費を喚起するプライム・デイ延期の影響を測りかねたことだ。プライム・デイは昨年から2日間開催となり、今年も10月の13、14日に行われる予定なのだが売上高は正式には公表されていない。ただ昨年販売された商品数が1.75億個だったとのデータから一部のアナリストでは70億ドルと試算されており、またeMarketerはそれが2020年に99.1億ドルになると予想している。2019年の3Q売上高699.8億ドルのうち、プライム・デイの2日間だけでその1割を売り上げていることを考慮すれば、延期の影響をどの程度ディスカウントすべきかで迷宮入りした。コンセンサスを出しているアナリスト達がどう試算しているかは知らないが、私は不完全ではあるが、総合的に勘案してeコマースの成長率を40%前後と結論づけた。つまりはトップラインの成長率が34%前後になると予想し、それはつまり事前予想を上回るということだ。

利益成長について

また2QのEPSは完全に予想外の10.3ドル(+97%)となり、市場予想の1.46ドルを大幅に超過した。コロナ関連のコストを40億ドル計上し、赤字の可能性まであると言われた純利益はマイナスどころか前年の26.3億ドルから52.4億ドルに倍増した。2Qの営業利益率は6.6%と前年同期から1.7ポイント改善しているが、その理由は注文量の増加によって採算が改善したこと、マーケティング費用を大幅にカットできたことがある。アマゾンのマーケティング費用は過去3年(2017〜2019年)毎年34.5%増加しているのだが、2Qはほぼ横ばいだったため、これだけで14億ドル近いコストカットになる計算だ。

3Qはコロナ対策費が2Qよりも20億ドル減少するとアナウンスされる一方、2Qに増強した新たなフルフィルメントセンターの運営費が大幅に増加することが予想される。アナリストの予想EPSは4.62~11.96ドルとかなり別れているように、不確定要素があり過ぎてもちろん予想は不可能だ。ただ利益面で重視されるのはEPSの数字よりももしかしたら利益成長を牽引してきたAWS成長率かもしれない。AWSは今年に入って明らかに鈍化傾向が現れており、2Qの成長率+29%はアマゾンがAWSの数字を公表して以来最低の数字だった。同期間にマイクロソフトのAzureも+59%から47%へ鈍化しており、これは固有の問題ではなく事業規模が膨らんだことで起こる自然な成長鈍化だ。私は3QのAWS成長率を26〜28%程度と試算しているが、営業利益の57.7%を占める同事業の成長鈍化は3Q決算最大のリスクかもしれない。

AWS成長率(statistaより引用)

また3Q決算におけるもう1つの注目点は4Q決算の見通しだろう。プライム・デイを前に4Qのコンセンサスはジリジリと引き上げられているが、今のところ売上高は前年比+27.3%の1,113.5億ドル、EPSは+36.2%の8.81ドルと予想されている。余程慎重な見通しを出さない限り、売上高はまず上回るだろう。会計事務所のデトロイトは11〜1月までのホリデーシーズンの売上高が2019年の+14.7%を大幅に上回る25〜35%の成長を予想。さらに今年の4Qではアマゾンとアップルが四半期ベースの売上高で初めて1,000億ドルを超えると見られている。四半期ベースで1,000億ドルを超えたことがあるのはウォルマートとエクソン・モービルの2社のみであるが、アマゾンとアップルは同時に達成する可能性が高い。

まとめ

アマゾンの目標株価は10/9時点で3,726.61ドルと現在の株価よりも13%以上高い水準だが、同社をカバーする47社のうちBuy以上の評価が43社、Holdが3社、Underperformはわずか1社しかない。向こう2週間において3Q決算への期待感やプライムデイ・年末商戦への楽観的な見通しによって株価は高値をつける可能性が高く、そうなった場合は決算前に材料を織り込んでしまう展開には注意したい。ただ長期的優位性は変わらず、唯一の懸念材料は政治的な圧力ぐらいしか見当たらない。