サウジアラムコの時価総額は約1.88兆ドルとなり、Appleの1.19兆ドルを大幅に上回り世界最大となった。たった1社の上場だけでサウジアラビアの株式市場「タダウル」の時価総額は5倍近くに膨れ上がりカナダ、インドを抜き、イギリス、フランスに次ぐ7番目の規模を持つこととなった。つい昨日までロシアやタイよりも小さかった世界20位そこそこの市場が一気に世界有数の規模を持つにまでになった。
しかし世界一の規模を持つ企業であっても、その実態はサウジの国営企業であり、不透明な国への支払い勘定が存在し、雇用を優先した非効率な組織だ。海外投資家の評判は悪く、上場に至る道のりはとても困難なものであった。今回は海外市場への上場や売出を諦め、国内市場へ上場したのだか、内情はとても褒められたものではない。初日高騰の背景には株価を押し上げるための幾つかの仕掛けが行われており、長期的な持続性はないに等しい。
サウジアラムコのIPOに参加した投資家はサウジ国民やファンド、それと湾岸諸国の国家ファンドが中心だ。引受から初日の取引までUAEやクウェートなどの湾岸国家がかなりの協力をしている。さらに海外ロードショーは中止されて売出し株数を制限することで、「株価」つまりは時価総額にこだわるようになった。
王子が求める2兆ドルの時価総額は、恐らく明日にも達成されるだろうが、それに何か意味はあるのだろうか?作られた時価総額によって一応のメンツは果たすだろうが、明らかにその後が大変だろう。石油依存の脱却を進めるために今後も追加売出を行うのであれば正当な価格を保ち、投資家を保全することがまず優先であろう。サウジ国民は半年間保有することで得られるボーナス株式を当てにしており、しかも資金捻出のためなら銀行の優遇金利を適用でき、政治的な圧力もあって初日売りはないに等しい。ブルームバーグの報道によると富裕層顧客へは初日買いの依頼まであったそうだ。
海外投資へのアクセスがないに等しいサウジ国民にとってサウジアラムコの信頼性と配当は確かに魅力的であり、株数を制限したことで売出価格は上限となり、取得争いは増加した。今年の5月よりサウジはMSCI新興国などの対象となっており、海外投資家へ株式市場へのアクセスを緩和したことでインデックス買いの需要も生まれている。しかしそういった一時的な要因はすぐに剥げ落ちる。
そもそも取引できないこの国の株式に関心もないのだが、サウジアラムコを客観的にみればガバナンスというものがいかに重要であるかという事に気付かされる。また有効性は認めているとは言え、こういった明らかに不利な要素が組み込まれるインデックスの問題点を改めて浮き彫りにしているだろう。