ウィーワークに見られる非公開市場のリスク

IPO延期、CEOの解任と大きな話題となったウィーワーク

今この時、孫正義氏はウィーワークへの追加出資のためにビジョンファンド出資者との激しい交渉の最中であろう。100億ドル以上を投じたこの投資を今止めればウィーワークは終わる可能性が高いが、追い銭は傷口をさらに広げるリスクをはらんでいる。深入りすればスプリントとは比較にならない程の不良債権と化す可能性が高いが、決断は容易ではないだろう。

「WeWork」の画像検索結果


IPOを実現するためにアダム・ニューマンおよびその取り巻きの解任だけでは不十分だ。しかも会長職として最大の議決権を持つ構図は変わらない。また宇宙人ニューマン氏のガバナンス的な問題は勿論あるが、そんな事は今更どうでもよく決定的な問題は非公開市場のバリュエーションが明らかに過大であることが証明されたことなのだ。





ウィーワークの470億ドルというクレイジーな評価額は、公正なマーケットが決めたものではない。あくまで年始の資金調達ラウンドでソフトバンクらが勝手に決めた価格であり、直近の150億ドルという評価こそが妥当で、同業のスイスIWGと比較するとそれでも過大評価である可能性が高い。ウィーワークの「シェアオフィス」というビジネスモデルは不動産の「サブリース」に他ならず、これは誰もが知っていたことだ。だからこそソフトバンクの幹部はじめ、ビジョンファンドの出資者などの身内がかねてより出資に反対し続けたのだ。





うまいこと高値でIPOをして、投資家にその代償を負わせたら罪だなと思っていたが状況は一変した。今年1月のビジョンファンドの出資分は結果的に20億ドルに落ち着いたが、当初は160億ドルを予定しており今思えば背筋が凍る。黒字の目処がないこと、IPOの評価額が事前の評価を大きく下回ること、さらに上場前にCEOが解任されることを含めてUberと酷似する点は多いが、ウィーワークの困難はさらに大きそうだ。特に資金繰りの懸念は大きく、IPOができなければ資金調達がままならず、かつ60億ドルの融資枠も得られない。来年以降は新興企業の恩恵も失い、IPOのプロセスも増加する。





ウィーワークの事業に大義はある。従来の不動産契約の不自由を解消し、柔軟性を与え、契約企業はかなりの恩恵を受けている。ただ肝心のウィー社の決算は2018年は18.2億ドルの売上に対して赤字は19.3億ドル。2017年は売上高8.9億ドルに対して赤字が9.3億ドルと凄まじい赤字規模だ。





先日のWSJの記事で「投資家は利益を伴う成長とそうでない成長をそれ程区別していない。」との表現があったが、今のマーケットはまさにそうだと思う。新興企業に求めるのはトップラインである売上高成長率であり、Amazonのようにシェアを取れば利益は自ずと後からついてくるとの見立てだ。低価格でライバルが蹴散らし、シェアを取ってから収益化を考える。ただしその間の赤字はひらすら資金調達で賄うしかないのだが・・・。





ビジョン・ファンドの1,000億ドルという額はそもそも非公開市場への投資額としては大きすぎで、VC業界は最大の被害者だろう。一部NVIDIAなどの上場株もあったが、大半を非公開市場の株式へ投入し強烈にバリュエーションを引き上げている。中にはFlipkartのように1年弱で大きな利益を得る案件もあったが、UBERやウィーカンパニーのように直近の案件はうまくいっているとは言い難い。





非公開企業にとっては現在のバブル相場は大歓迎だ。資金調達の機会が増え、評価額は驚くほどに膨れ上がり、交渉を有利に進められる。ただ企業がIPOを遅らせ、過大な評価を持って公開市場へ参入してくることは一般投資家にとって悪夢以外の何者でもない。





アラブやソフトバンクが大損することについてはどうでもいいがその被害は拡大する。ソフトバンクは国内の銀行から多大な融資を受け、国内の無知な投資家から社債を通じて資金調達している。もし全てが逆回転すれば、現在の世界的な緩和局面でもし仮にとてつもない景気後退が訪れた場合、果たしてどうなるのだろうか?





大きな景気後退に陥るきっかけはバブル崩壊だ。2000年のITのバブル、2008年の住宅バブルは、今思えばいずれも実態のないものへ過度な資金が流入したことが原因だった。2000年程ではないが、今もITを中心としたハイテク企業のバリュエーションは過大だ。足元の調整が示すように簡単に半値、3分の1に下がってもおかしくない企業がゴロゴロしている。2008年の住宅バブルについては信用の極めて低い住宅ローン債権に多額の資金が投入されて破綻した。金融機関やファンド、政府系機関まで損失を被り、ついには世界的な信用収縮が起こった。



住宅バブルを事前に予想したマイケル・バーリ氏は現在はインデックスファンドへ警鐘を鳴らしている。現在の低金利を背景に世界中でインデックス投信へ資金が流入しているが、歪みが生じていると言う。同氏は将来のリスクを警戒し、パッシブの手が及ばない小型のバリュー株への投資への依存度を高めているとのことだ。




私は圧倒的に新興市場バブルを懸念している。現在のところ新興企業は資金調達十分なことから分不相応な投資を拡大しているケースが多い。マーケットの温度感が低下し、追加投資が得られなくなれば破綻し、多くの企業およびステークホルダーへ影響が出るであろう。