アップル

年始早々の「アップルショック」は衝撃的なものであったが、特に中国市場における不透明さは投資家を不安に陥れた。明日の朝にはアップルの2018年10-12月期の決算発表が行われる予定だが販売台数は公表しないとのことなので、調査会社Strategy Analyticsが1/25に発表したレポートを紹介したい。


China Smartphone Vendor Shipments and Marketshare in Q4 2018

(Millions of Units)Q4 '172017Q4 '182018
Huawei24.390.830105.1
OPPO22.886.622.482.8
Vivo20.573.122.279.3
Xiaomi15.552.71050
Apple1436.710.934.2
Others24.2119.812.457.1
Total121.3459.6107.9408.5


アップルの中国市場における出荷台数は、2018年10-12月期に前年同期比-22%の1,090万台に落ち込んだ模様だ。また2018年通年では前年比-7%の3,420万台となっている。



中国市場全体で見ると出荷台数は2018年10-12月期、通年ともに前年比-11%程度に減少。特にアップルと小米の落ち込みが目立つ中、ファーウェイがシェアを大きく拡大している。これは米中貿易摩擦の影響もあるだろうが、肝心なのはアップルの値上げが限界に達しつつあることを示唆していると思う。



前年度iPhoneの販売台数はほぼ横ばいであったが、値上げとサービス部門の拡大で売上高は前年比+29%の過去最高を記録した。



しかしスマホの高額化は買い替えサイクルを長期化し、ハードの販売で収益を上げる同社のビジネスを危うくしている。値上げによって2018年は耐えたが、2019年以降の販売において悪影響を与えることになるだろう。



Netflixの値上げは有無を言わせず毎月徴収することで、問題なく収益を拡大させるだろうが、買い替えの機会を与える必要があるアップルにとっては大きな問題だ。これはまさに私がアップル株を敬遠する理由でもあるのだが。





さらに悪い兆候として世界最大のスマートフォン市場である中国は(2019年には小売売上高においても世界最大になるとみられている。)、アップルの強みであるOSの優位性はあまりない。何故ならこの国ではアプリの優位性が強くAndroidだろうがiosだろうが関係なく、Wechatを使って過ごすためだ。iPhoneが有するデバイスの優秀さが生かされておらず、価格上昇はユーザー離れを引き起こす可能性が高い。





このようにスマホ市場は既に飽和で、値上げは限界と状況は非常に厳しい。しかしそんな中でもアップルが次なる一手をどう打つかに注目している。それを乗り越えるにはサービス部門の拡大と新たなデバイスの成長しかないことは明らかだが。



2017年にCEOティム・クックは2020年までにサービス部門の売上高を倍増の500億ドルを目指す目標を掲げたが、もはやその目標では不足だ。2018年度のサービス部門は前年比+33%の397億5000万ドルへと成長し順調に来ているが、売上高の6割を占めるiPhoneの減速を埋めるには到底足りないであろう。




セグメント別の売上高比率(2018年7-9月期)を見ると、iPhoneの売上高は371.9億ドル (59%)、サービス99.8億ドル(16%)、Mac 74.1億ドル(12%)、iPad40.9億ドル(6%)、 ウェアラブルなどのその他製品は42.3億ドル(7%)という構成だ。明日発表される2018年10-12月期決算では、サービス部門の割合は増すだろうが、iPhone依存の構成は当面変わらない。



今のところiPhoneの売上高が1割落ちればIPad分をほぼ吹き飛ばすし、2割落ちればMac分となるインパクトだ。いずれにせよハードの販売が売上高に占める割合は85%を超える。




一方でモルガン・スタンレーの調査によると、アップル端末1台あたりのサービス売上高は2018年3月時点で30ドルと言われている。2年間で5ドル増えたそうだが、これは今後サービス部門の拡大余地が十分であることを示しており、アップルの希望だ。




しかしさらに長期的に視点で考えると、サービス拡大の余地はライバル達に比べて少ないことが分かる。何故ならFANGと言われる企業、GoogleやAmazon、Facebook、Netflixがインターネットにつながる全てのユーザーを対象しているのに対して、アップルは自社のデバイスを利用するユーザーに限定しているからだ。




つまりはサービス部門の将来も結局のところハードの販売にかかっている。







アップルのビジネスは極めて閉鎖的だ。エコシステムを自社で支配することを優先し、サードパーティへも厳しい制約を課している。アプリケーションの販売も全てApp Storeに限定する独占的な手法はたびたび問題視されている。



つまりはアップルへの献金なくして、外部の業者がアップルユーザーから売上を得ることは不可能なのだ。ちなみにGoogleはSafari用の検索エンジンにしてもらうため年間90億ドルもの支払いをしている。




ティム・クックCEOはユーザーの利便性向上よりも囲い混みに熱心で、最近では個人情報保護の名のもとに、自社の独占的なビジネスを正当化するようになった。情報を金にするライバル達を批判することで、ハードとサービスの両面から手掛けるメリットを最大限に活かそうと躍起だ。



これは確かに合理的な戦略だ。情報技術の企業たちが規制を受ければ、ハードを主体とする同社のビジネスモデルがより有利に立つ。今のところハードとサービスの両面を提供できるスマホメーカーはアップルとGoogleのpixelにおいて他にはない。



ただ高額なハードを主体としてビジネスを進めた結果、アジアや南米などの新興国へ浸透していないことは大きな問題だ。今後高い成長が期待される新興国において、iPhoneはあまりに高額すぎる。



eMarketerによるとインドのスマートフォン市場におけるiPhoneのシェアはわずか1%にとどまるとのことだ。13億もの人口を抱えるインドのスマホ普及率は24%と低いが、4Gの普及が進んでおり、今後最も有望な市場の1つと見られている。しかし今のところ中国メーカーの独壇場だ。


これは部品調達におけるインドの規制が大きく影響しているのだが、根本的に価格が高すぎることでシェアの拡大は望めないだろう。



一方でアプリ調査会社App Annieによると、2018年に最もyoutubeを再生した国はインドとのことだ。Googleは既にインド市場で1500億円程度の売上を上げており、この数字は今のところ年間3割ペースで増加している。NetflixやAmazonも同様だ。



これらの成長市場への進出が遅れることはアップルにとっては大きなマイナスだろう。アジアなどの新興国ではサービスを主体としたロングテールのビジネスモデルが強く、高額なハードを主体としたアップルにはあまりに不利に働いている。




アップルの一番の挽回策は、稼ぎ頭となる新たなハードを構築することだ。今のところApple Watchを筆頭とするウェアラブル端末が有望で、JNJとの提携は健康志向を捉えたツールとしての価値を高めようとしている。



また閉鎖的なビジネスモデルを開放する必要性もあると感じている。




「あらゆるものがインターネットと接続する」Iot時代において、今後デバイスは多岐にわたる。これまではサービスを自社デバイスに限定することでブランド化し、ハード販売へにつなげる戦略で成功を収めてきたが、全てのデバイスを自社で抱えることは不可能だ。



これに関しては今月大きな変化があった。SamsungやLG、ソニーなどのメーカーがアップルの「AirPlay」をサポートしたスマートTVの発売を発表したのだ。これによりかつてアップルのデバイス上でしか見られなかったアップルTVがソニーのデバイスにて視聴が可能となる。さらにはiTunesで配信されるコンテンツも購入することができる。



部分的とは言えAppleが自社のデバイスを通さずにiTunesへのアクセスを認めるのは大きな変化と言えるだろう。また既にApple MusicについてはAmazonのAlexaに対応している。



アップルがサービス主体の会社になるには長い年月がかかるだろうが、いずれはその方向に進めざる得ないと見ている。時代はサブスクリプションモデルへ移行する流れだ。



長々と文章を続けたが、そろそろまとめに入りたい。私の見立てとしては当面の間、Appleの株価は苦しむであろう。中国の減速次第ではiPhoneの販売台数の下振れ懸念は十分にある。またそもそもiPhoneの高額化によって、他の地域でも減速する可能性は高い。


下振れをサービスやウェアラブルの販売、また大規模な自社株買いで食い止めるまでが精一杯だろう。2018年は727億ドルにものぼる自社株買いを実施し、137億ドルの配当金を支払った。



私は閉鎖的でかつハードの販売、しかも買い替えを主とする同社のビジネスがこれ程成功するとは思っていなかった。しかし2007年に初代iPhoneが登場して以降10年以上経つが、同社は依然としてスマートフォン市場の頂点に君臨し、莫大な利益を稼いでいる。経営陣も極めて優秀だ。



日本企業の多くは製造業であり、10年前も今もGDPの2割を占める基幹産業である。アップルが中国などの新興国の台頭で苦しむ側面も同様であり、同社が今後どのようにビジネスを進めていくかは、大変参考になるだろうと感じている。




米IDCによると2018年の世界スマートフォン出荷台数は前年比-3%の14.2億台だった。2019年以降についてもゆるやかな微増に留まると予想されている。明日の決算では1-3月期の見通しが最も重要な項目になるだろうが、大切なのは今後5年から10年かけて成功する企業かどうなのかを見極めることだ。


いずれにせよ同社の手掛けるビジネスは裾野も広く、先行きが低迷すれば世界経済全体へ影響を与えるということだ。