テンセントの未来 1


テンセントの創業者でありCEOの馬化騰(ポニー・マー)の苦悩は想像を絶する水準に達しているかもしれない。中国共産党との折り合い、米中貿易摩擦、国内の熾烈な競争など同氏を悩ませる難題は尽きない。


日本も規制や既得権益にまみれた大変さがあるが、中国のそれは次元が違う。ビジネス上の競争に加えて政府との関係維持が求められ、少しでもミスればアウトである。加えて現在は政情も不安定である。米中の軋轢によりZTEは破綻寸前まで追い込まれ、調子に乗っていた保険会社のCEOは懲役18年に財産没収(1800億円)という環境である。アリババのジャック・マーの引退には何かあると感じるのは当然の流れであり、私自身も改めて中国リスクというものを感じている。



ポニー・マーは元共産党である父親の元、比較的裕福な家庭に生まれ、父親とともに1998年にテンセントを創業した。それから20年が経過しテンセントは中国国内では知らぬ者がいないほど力を持った。いや力を持ちすぎた。
ジャック・マー氏に比べてポニー・マー氏の情報や発言は極めて少ない。海外ニュースをはじめかなりの数をリサーチしたが、同氏のコメントは本当に少なくて苦労する。ただグーグルやフェイスブックなど米国企業のビジネスモデルはかなり研究しており、また投資にかなり積極的であることは伺える。




しかし技術屋であり戦略家でもある同氏の現在のメインの仕事は政府対応だ。全人代始め、政府の会合に費やす時間は年々増え、規制対応に忙殺される日々が続いている。中国共産党にとってテンセントは国を代表する企業でありながら、最も警戒している企業の1つである。政府の繰り出す規制は、まるで「どちらが力を持っているかはっきりさせてやろう。」という意思すら感じるほどである。また同社が運営する中国最大のSNS・Wechatには特別目を光らせている。さらにゲーム規制を敷くことでテンセント株は今年奈落の底へ落ちた。




2017年までの10年間、投資家に年率平均40%以上のリターンをもたらしてきた同社株も今年は1/29につけた高値から3割以上下落し、時価総額で20兆円以上も失っている。
下落の引き金となった8/15の第2Q決算だが、その前に警戒を鳴らしていたのは日本の野村である。同証券はゲーム規制を根拠に数少ない減益予想を出していた。結果は野村が予想する程悪くなかったが、10年ぶりの四半期ベースで減益となり年始から続いた下落は加速した。



またアリババへの投資で大成功したのがソフトバンクならテンセントは南アフリカのメディア企業Naspersである。同社は2001年以来テンセントの3割を持ち、今まで売却をしたことはないのだが、今年の3月に始めて売却意向を示すなど警戒すべきポイントは複数あったとも言える。
ただいずれも目先の話ばかりでもう少し先を見据えて話をしていく予定である。ちなみに過去を振り返ると2011年にも半年で4割を超える下落があったのだが、その時に買った投資家はその後10倍以上のリターンを手にすることができた。果たして今回はどうなるのだろうか?


私の予想はゲーム依存の収益体質からある程度脱却した頃に高値を抜く。つまり数年かかる可能性がある。


中国政府によるゲーム規制は一過性で、テンセントのゲーム収益は後ズレしているだけとの楽観的なコメントはよく見かけるが、それは甘く私はある程度時間がかかると思っている。現在のところゲーム事業は売上高の約半分を占めており、しかもかなりの高い利益率を誇っていたことから当面苦戦する可能性が高い。
今後もゲーム事業が中核を成すことは変わりないだろうが、クラウド・広告などの収益源をさらに拡大させられるかが最も重要なポイントとなろう。それがいずれ訪れるであろうゲーム市場の鈍化に対してもヘッジとなる。幸いテンセントにはWechatを筆頭に有望なツールが揃っている。政府によるゲーム規制は確かに大きなダメージとなったが、新たな収益源の拡大・海外進出を加速させるきっかけとできるかどうかに注目したい。
続く。